若者の日本酒離れに異変? 老舗酒造の「まったく新しい日本酒」が若者に人気

2023年06月11日 09:27

別鶴 そよ風のクローバー イメージ

白鶴の商品開発の中心を担うのは、ターゲットと同世代の30歳前後の若手社員たちだ

 日本人の日本酒離れが進んでいると言われている中、海外では逆に日本酒の需要が年々増加傾向にある。全国約1700の酒蔵が所属している日本酒造組合中央会の発表によると、高価格帯の日本酒を中心に、中国やアメリカ、香港などへの輸出が伸びており、2022年度には日本酒輸出総額が約500億円に達し、13年連続で前年を上回る結果が報告されているのだ。

 では、どうして日本では日本酒があまり飲まれなくなってきているのか。それには、いくつかの理由が考えられる。一つは、酒類も多様化が進み、選択肢が増えていること。それに加えて飲酒習慣そのものが少なくなってきていること。さらに近年は、コロナ禍で飲酒する機会が減少したことも大きいだろう。ところがその一方で、山形県の楯の川酒造が昨年実施した、日本酒の飲用実態の調査結果では、飲酒習慣のある女性の4割以上が、料理の相性に合わせて「日本酒」を選びたいと回答している。また、パーティーシーンや接待の場面で利用したいという回答も約7割もあることから、日本人が決して日本酒を敬遠しているのではないこともうかがえる。

 とはいえ、若者にとってはやはり、日本酒はなかなか手を伸ばしにくい酒であることは否めない。ライトなチューハイやサワー、ビールなどに比べて、日本酒はイメージからして重い。一升瓶やパックなどの見た目もそうだし、熟練した大人の飲み物という印象が濃い。いぶし銀のような日本酒は、若者世代にはハードルが高いのだ。

 そんな中、日本酒の老舗メーカー・白鶴酒造で「若者層」にとくに大きな支持を得ている日本酒ブランドがあるという。その名も「別鶴(べっかく)」だ。

 同社は2016年にこの「別鶴」プロジェクトを立ち上げた。商品開発の中心を担うのは、ターゲットと同世代の30歳前後の若手社員たちだ。若者世代にもっとカジュアルに楽しんでもらえる日本酒をコンセプトに、既成概念に囚われない商品開発を推し進め、驚きや楽しさを感じられる商品を造りあげた(あっと驚くあたらしい日本酒として3種の日本酒を造りあげた)のだ。また、クラウドファンディングやSNSを積極的に活用したり、「そよ風のクローバー」や「お日様のしゃぼん玉」といった、これまでの日本酒のイメージにはなかったやわらかなネーミングやラベルにしたり、販売手法の面でも若手社員主導ならではの、徹底的に若者の目線に沿ったスタンスを貫いている。それが功を奏し「別鶴」はSNSで3万人以上のフォロワーを獲得するなど、大きな話題を呼ぶヒットブランドとなった。また、第一弾商品は、2021年グッドデザイン賞や2021年12月「Topawards Asia」を受賞し、パッケージでも高い評価を得ている。

 好調なスタートを切った「別鶴」だが、新メンバーを迎えてスタートした第二期は、コロナ禍の中、運営面で苦労を強いられたという。第一期が成功して、社内的にも業界的にも期待が高まる中、プレッシャーを乗り越え生み出されたのが、今年4月12日に発売されたばかりの新商品「別鶴 フクロウのうたたね」と「別鶴 ウミネコのひとやすみ」だ。

 今回の商品は、「ゆったりとした時間を楽しみながら、一口ごとに心を満たす」をコンセプトに、くつろぎの時間によりそう日本酒を目指して開発された。まるで絵本のタイトルのような可愛い名称ではあるものの、中身は若手社員のプロジェクトとは思えぬ本格的な日本酒だ。特筆すべきは、自然の力を活用した「生もと造り」に挑戦した点だろう。現存する酒造りの技法の中でも最も伝統的な技法と言われている。小さなスケールから醸造試験を繰り返して、徐々にスケールアップ。速醸仕込みの2倍の2ヶ月近くかかり、手間もかかったという。その甲斐あって、酒蔵開放の際に今回の「別鶴」を試飲した人たちからは、「度数控えめ甘口で飲みやすい」「樽の味わいが感じられて面白い」「フクロウとウミネコのラベルがかわいい」など、高評価を得たようだ。
 
 日本酒だけに限らず、「若者ばなれ」が課題になっている業界は多い。ベテランの経験や知識は、その業界にとって尊重すべき大切な財産だが、それに囚われ過ぎるのも考えものだ。若者世代が求めるものを最もよく知っているのは、同じ世代を生きる若い社員たちであるのは間違いない。時には経験や実績ではなく、若者の情熱に託して見守るのも、ベテランの仕事ではないだろうか。そして彼らが成功した暁にはぜひ、「別鶴」で労ってあげてほしい。(編集担当:藤原伊織)