人工知能(AI)について政策の方向性を議論する「AI戦略会議」で座長である松尾豊・東大大学院教授は、日本経済新聞のインタビューに応じ、「国内での生成AI開発に必要となる設備の整備を、政府がインフラ投資として支援すべきである」との意見を述べた。
Chat(チャット)GPTなどのような生成AIの性能を高めるには、ベースとなっている大規模言語モデル(LLM)という仕組みに膨大な量のデータを学習させなければならない。より自然で高度な文章生成を行うAI開発のためには、半導体やサーバーなどの膨大なデータを扱う計算用インフラを備えた大規模なデータセンターなどが必要になる。
しかし国内では、産業技術総合研究所が運用しているスーパーコンピューター、「AI橋渡しクラウド」が2018年から運用開始したばかりで、民間企業に開放することでGAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)など外国企業のクラウドへの依存を減らすことには貢献しても、能力的に生成AI開発に足るとは言えない。
一方、アメリカ発の生成AIについてはGAFAMなどの巨大な収益基盤を持つ企業が、開発のインフラを支援しているという。従って日本でも産業技術総合研究所の設備を更新するなどの方法でテコ入れを行い、「日本勢が不利にならないよう、国がしっかりサポートすべきだ」「NECやソニーグループのような大企業や有力スタートアップが、自ら開発費をまかなう構図をつくる必要がある」と松尾教授は提起している。また、チャットGPTの現在のビジネスモデルも最終形ではないとし、日本勢も参入すべきだとも訴えた。
AIについては雇用への影響もあるといわれているが、例えばAIから質の高い内容を引き出す「プロンプトエンジニアリング」と呼ばれる仕事があり、今後も永続する仕事ではないかと予測しているという。
生成AIについてはEU欧州議会で規制案が採択されており、AI戦略会議でも議論はあるものの、松尾教授は「一般的にAI開発はあまり規制すべきではない」という考えだ。チャットGPTの生みの親であるOpenAIのサム・アルトマンCEOは高度なAIの開発・提供にライセンス制や認証制を導入し、基準を満たさない企業には開発も流通も認めない仕組みを提案しているが、これについても「『AI保有国』が米国含む数ヶ国だけという状態になってはいけない」としている。
5月に行われた主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)で、G7の閣僚級がAIを巡るルールづくりを話し合う「広島AIプロセス」が始動している。AIについては米欧が日本よりも先を行っているが、米欧それぞれで思惑は異なるという。松尾教授は日本政府に対して「バランスを取るためのリーダーシップを発揮してほしい」と期待をこめて語った。(編集担当:久保田雄城)