【コラム】数十年続く海洋投棄 安全性チェック持続確実に

2023年08月27日 09:55

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電事連・産業界・経団連の言いなりで原発推進を進めて良いのか、原発事故の教訓を生かしたエネルギーの在りようを、今、歩みを止めて冷静に考えることが必要だ

 東京電力福島第一原発の廃炉と福島復興への道を進めるうえで避けられない課題だとして、24日から原発敷地内で日々増え続ける放射性物質に汚染された水のALPS処理水の海洋放出が始まった。海洋への放出というが、表現は悪いがALPS処理水の海洋投棄にほかならない。そして今後、数十年続く。

 それでも岸田政権は「原発回帰」を推進している。電事連・産業界・経団連の言いなりで原発推進を進めて良いのか、原発事故の教訓を生かしたエネルギーの在りようを、今、歩みを止めて冷静に考えることが必要だ。

 加えて、国際社会と国民に対しての「海洋投棄」の安全性の客観的担保・透明性を政権がどこに代わっても確実なものにしていく責任は当事者の「東京電力」と海洋放出を決定した「政府」、客観的な立場・第3者としてのIAEA(国際原子力機関)が完遂まで背負うことが必要だ。

 西村康稔経産大臣は(1)透明性は政府と東電が勝手に選んだ情報やデータを公表することだけでなく、独立した第三者、市民団体やNGOなどが処理水の放射性物質の濃度の測定やモニタリングに参加出来ることも大事。水中のトリチウム濃度を当分の間、毎日サンプリング・分析を行う。結果は翌日の夕方に公表する。

 (2)環境省は海水中のトリチウム濃度を当分の間、毎週サンプリング・分析し、サンプリングでの取得分の結果は取得日の2日後に結果を公表する。

 (3)水産庁も魚のトリチウム濃度を当分の間、毎日サンプリング・分析し、取得分は翌日夕方には結果を公表する旨発表した。「透明性高く分かりやすく公表していく」と。

 いずれも「当分」としているが、放出中は毎日、最低でも毎週、継続実施し、結果を公表していくことが「風評被害」や政府などの取組みに信頼を醸成することになると理解していただきたい。

 西村経産大臣は「政府として科学的な根拠に基づく透明性の高い情報を国内外へ発信していくとともに、東京電力福島第一原子力発電所に常駐するIAEAにチェックを受けながら安全性の確保に取組む」と強調した。

 一方、海洋放出を巡っては、G7広島サミットの首脳コミュニケに日本政府に「誤訳」があったとの指摘がある。

 ニューズウイークに記事を寄稿しているフランス出身のフリージャーナリスト西村カリンさん(元AFP通信記者)は処理水について原文では「G7の国々の首脳は『処理水の放出』が『不可欠』と言っていないし、賛同していない」と原文と政府の仮訳を対比して紹介。

 原文の訳は「われわれは多核種除去システム(ALPS)処理水の放出がIAEAの安全基準と国際法に合致して実施され、人体や環境に害を及ぼさないことを確実にするために、IAEAによる独立した審査を支持する。それは福島第一原発の廃炉と福島県の復興にとって不可欠だ」。

 政府の訳は「我々は、同発電所の廃炉及び福島の復興に不可欠であるALPS処理水の放出が、IAEA安全基準及び国際法に整合的に実施され、人体や環境にいかなる害も及ぼさないことを確保するためのIAEAによる独立したレビューを支持する」。

 つまり、G7が「不可欠」としたのは「放出」ではなく、「IAEAの安全基準と国際法に合致して、人体や環境に害を及ぼさないことを確実にするために、IAEAによる独立した審査」が不可欠ということだった。

 西村氏は松野博一官房長官に「誤訳」をなぜ修正しないのかと何度も質したという。そのたびに「仮訳はあくまで参考として作成している。その上で、さまざまな議論の結果取りまとめられた宣言の仮訳については、妥当なものと考えている」との答えが返ってきたとしている。

 こうなると「誤訳」の粋を超え、G7で放出に対し理解を得られたと国内(国民)向けに情報捜査(世論操作)したのではないのかと疑われても致し方ないレベルといえよう。

 だからこそ「海洋投棄」する以上、安全性と透明性を高いレベルで制度上も担保しておくことが必要だ。西村氏は25日、「X」で自身の処理水に対する考えを発信した。

 西村氏は「記者としても、個人的にも処理水の放出そのものが危険で安全ではないと言っていない。東電とIAEAのデータを見た限り安全ではないとは言えないから。ただ東電とIAEAのデータだけでいいのか?正直言えば分からない。政府と東電の一方的な説明だけでなく、日本内外の複数専門家の意見を聞くのも大事。もっと多くの専門家が時々処理水の放出設備や放射性物質の測定仕組みなどを視察できれば良い」と綴った。

 「透明性は政府と東電が勝手に選んだ情報やデータを公表することだけでなく、独立した第三者、市民団体やNGOなどが処理水の放射性物質の濃度の測定やモニタリングに参加出来ることも大事」とも記述している。そうすべきだと筆者も求めたい。

 当初は海洋放出に反対していた韓国政府も専門家にIAEAを定期的に訪ねさせてチェックすることにしたほか、常に情報はIAEAが韓国側に提供することになったという。なるべく、多くの機関・第3者、海外の専門家がチェックに関わっていくことが風評被害を生じさせないことにもつながり、持続的に安全性を担保していくことになるはず。こうしたことに東電・政府・IAEAの真摯な姿勢を期待したい。(編集担当:森高龍二)