年間売り上げ1000万円以下の零細事業者に消費税課税事業者になるかならないかを迫る「インボイス」制度が10月スタートするが、その直前でもフリーライターや声優、小規模・零細事業者らから制度の中止、延期を求める声が相次いでいる。
課税事業者になれば「新たな負担」。ならなければ「取引を断られたり、取引価格を引き下げられたり」。零細事業者にはどの道を選択しても『地獄の選択』になるという。切実な問題を抱えている。
4日には財務省、国税庁、公取などにフリーランスや多種多様な零細事業者ら36万人超の署名が「インボイス制度を考えるフリーランスの会」から提出された。
取引先が大手であればあるほど「インボイス(適格請求書)」による請求が暗黙の中で求められる現実がある。
「インボイス制度は税率を変更しない消費税の増税」実態がある。制度で廃業を考える事業者がエンタメ業界で2~3割、建設業界で1割あるとインボイス制度を考えるフリーランスの会は深刻さを示す。
中小企業・小規模事業者の健全な発展をめざす「ティグレ連合会(フリーランスを含む小規模事業者3万者で構成)」も「税の3原則(公平・中立・簡素)からかけ離れ、混乱が避けられない」と制度の凍結・廃止を求める要望書を国や与野党に提出した。
要望では「中小企業・小規模事業者の中には取引先や消費者との関係に配慮が欠かせず消費税を正しく転嫁できない状況がある。現に免税事業者が取引において値引きを求められたり、排除される事態が起こっている。請求書等の書類上は消費税を受け取っているようになっているが、実際はその分の単価を減額され、税込みの総額は変わらない状況が多い」と力関係から苦しい状況に置かれていることを記述。
そのうえで「インボイス制度も同様の問題で、適格請求書は課税事業者しか発行できないため、建設業や鉄工所などのいわゆる一人親方、近年増加したフリーランスなどの免税事業者はインボイス制度のもと、課税事業者となって消費税を納めるか、あるいは商品やサービスの価格を消費税分下げなければ取引できなくなる可能性が強まる。経済的にも事務的にも負担を強いることになるのは必至。小規模事業者にとっては事業継続の瀬戸際に追い込まれるケースが出てくると予想される。そもそも国内で事業者が行う取引は課税事業者であろうと免税事業者であろうと原則消費税を含めた金額で取引している。インボイス登録事業者でない者との取引は仕入税額を控除できないのはおかしい」と廃止を求めた。
さらに要望書では切実な事例も紹介。「軽貨物ユニオンの方々が各省庁に訴えた年収300万円。経費引いて200万円ぐらいの儲けで、月の生活費は約16万円。消費税を簡易計算すると約15万円。ほぼ1か月分の生活費を税金として納めるのか」と記述しており「取引先との事業継続のため課税事業者となり新たに納税事業者となる小規模事業者は利益・所得の減少が予想され、生活困難者となる可能性がある」と切実な問題であることを訴えている。
政府は制度スタートから3年間は経過措置により負担を2割に抑えるとしているが、10月からの消費税に関する帳簿管理負担に加え、4年目からは満額(15万円)負担になる。
そもそも、この制度自体が税の公平性からみて「不公平」な仕組みになっている。政府は課税事業者になるか、ならないかは『任意』としているが、任意自体がおかしい。同じ所得でありながら、これまで通り免税事業者でありつつければ消費税に関する納税は「ゼロ」。同じ所得で納税する者としない者が生じる。
制度設計そのものが「不公平を生じる制度」である以上、廃止し、インボイスが軽減税率導入で派生した仕組みであることから、軽減税率そのものを廃止。消費税は「8%」に一本化し、小規模零細事業者が事業継続して生活できるようにすることが必要だろう。減収分は安倍政権下で大幅に低減・優遇してきた「法人税」と「所得税」の見直しでフォローすべきだ。
岸田政権は税収確保に熱心だが、一方で、トヨタ自動車にEV用リチウムイオン電池の投資に約1200億円を補助、ホンダがGSユアサと組む蓄電池などの生産設備投資に約1600億円を助成。半導体分野ではルネサスエレクトロニクスとイビデンに約560億円を助成。トヨタ自動車・デンソー・ソニーグループ・NTT・NECなど大企業が設立した「ラピダス」の最先端半導体工場には総額3300億円支援を支援する。
加えて、ASEANインド太平洋フォーラムでは「交通インフラ整備で港湾、道路、鉄道、空港を整備し、ASEAN諸国の人の流れ、物の流れを促進していく」として「我が国が現在実施しているプロジェクトは約2兆8000億円分にまで拡大している」と紹介した。外交での日本の貢献には納得できるが、国内大企業に大盤振る舞いのこれら姿勢にはインボイス導入で苦しむ零細事業者の声を軽視する姿勢と対照的だ。
ティグレ連合会はインボイス廃止を求める一方で「凍結・廃止が困難なら適格請求書等を全国的に数種類の様式に統一し、AIを活用したスキャンや自動読み取りなど事務の簡素化につながる法的整備と小規模事業者を事務処理上支援していく会計事務所等への補助金創設を」と要望している。妥協する「最低限の要望」だろう。税の公平性と適格な対応を政府に強く求めたい。またインボイスを強行するなら、任意選択でなく、すべてを対象にし、政府がその影響への責任を負うべきだ。(編集担当:森高龍二)