クマによる人身被害が増えている。4月~10月末現在200人近くが被害を受け、12人は命を落とした。今月5日までに死者は1人増えた。環境省が17日発表した。
エサ不足が最大原因。国策で杉、ヒノキの人工林が広がり過ぎた結果、ブナなどの落葉広葉樹が減り、実をつける量が少ない年には食糧を求めて人里まで進出せざるを得なくなっているとみられる。耕作放棄地の増加も要因のひとつになっているという。
こうした中で人身被害を防ぐためにクマの捕獲と駆除(殺処分)が盛んに言われる。9月には鳥獣保護法を改正し市街地での「猟銃発砲」が一定条件の下で行われるようになった。
日本クマネットワークは6日「クマ類を巡る状況に関する現状整理」を発表した。それによると「秋の出没が多い地域では秋の主食の複数種のドングリ類が不作で、これまでも、ドングリ等が不作の年にはクマ類は行動範囲を広げる傾向があった。そのような状況で、人間活動域にカキ、クリ、クルミ、放棄された果樹、電気柵が設置されていない耕作地が存在すると、それらに誘引されて人間活動域への出没が促進される」と警鐘を鳴らした。
捕獲されたクマの胃を調べた結果の報道がある。胃中の食物の3分の2が「米」だったという。民家納屋に米があったのを見つけ、食したのがきっかけで人の生活域に入るようになったケースもありそうだ。人と鉢合わせし、怖さに加害することも考えられる。
ネットワークは人身被害急増の背景について「従来、クマ類の攻撃は『身を守るため』や『子グマを守るため』がほとんどと考えられてきた。しかし、今秋は複数人で行動していても襲われ、最初から意図的に攻撃する事例が発生している」と行動の変化を提起する。
そして、これらの行動が(1)特定のクマ個体の特異な行動なのか(2)複数のクマが人間への警戒心を低下させているといったクマ側の特性なのか(3)人間側の特定の行動などに起因するものなのか「分かっていません」と今の段階で攻撃要因が特定できないという。要因が特定できなければ効果的な防護方法が見いだせない。要因の特定が急がれよう。
ネットワークは注意喚起も行っている。出没が確認できている地域では「玄関の外にも、下車した際にもクマがいるかもしれないと考え、外出時にはクマ撃退用スプレーを携行する。散歩やジョギングも危険があるので、動画で適切なスプレーの使用方法を確認しておく。事故による重篤な外傷や重症化を避けるため、首の後ろを手で守り、うつぶせになる防御態勢をとることで死亡や重症化のリスクを下げるとされているので、対応方法として想定しておくことが望ましい」という。
短期的には被害に遭わない対応と市街地での駆除もやむを得ないのかもしれない。一方で、中長期的にはクマが人の生活圏に入り込まなくても暮らせる「自然林」の復活作業を国策としてとることが必要ではないだろうか。
広葉樹林の復活はクマとの共生のみならず、他の野生動物の生態系にも好影響を与えよう。杉、ヒノキのような針葉樹と違い、広葉樹には高い保水機能が期待でき、台風、大雨の土砂崩れや鉄砲水抑制にも効果が期待できる。
広葉樹の四季の彩は日本の原風景であり、童謡「紅葉(もみじ)」の歌詞そのものの情景は日本の四季の魅力を高めることになる。子どもたちの情操教育、情感豊かな成長にもつながるだろう。
また人工林に関しても森の地に光が届くよう国策として「間伐」を進めることが必要だ。光が届かず、草さえ生えない状況では野生動物が生きられるはずもない。
愛媛の友人から「四国にはクマがいない」という話を聞いた。40数年前に駆除し減少し、四国全土で数十頭と。杉・ヒノキといった人工林が広がったこともあるが、クマの頭数が減ったために鹿害が増えているともいう。
結局、自然の生態系を壊してきたのは我々「人間」といえよう。改めてブナやウバメガシなど「どんぐり」を生む落葉広葉樹の自然林を再生させる政策が望まれる。季節感も豊かになる。広葉樹を切り倒し、杉・ヒノキを植え、開発を進め、地球温暖化を招いてきた我々にとって、クマ問題は「自然環境を考え、取組みを図る機会」にすべきだろう。(編集担当:森高龍二)













