企業活動における本人確認(KYC)や顧客管理の重要性が高まっている。金融庁は公認会計士・監査法人向けのマネロン対策ガイドラインを公表し、リスクベース・アプローチに基づく管理態勢の考え方を示した。(画像はイメージ)
今回のニュースのポイント
金融庁は17日、公認会計士と監査法人を対象としたマネー・ローンダリング(マネロン)やテロ資金供与、拡散金融対策に関するガイドラインを公表しました。背景には、犯罪資金の流れが国際化し、FATF(金融活動作業部会)において金融機関に加え専門職なども対象とする対策が求められている現状があります。会社設立や合併等の手続き、資産管理など企業活動に関わる公認会計士にも、リスクに応じた顧客管理や本人確認の的確な運用が求められる時代となりました。今回のガイドラインが示す制度のポイントと、その背景にある構造変化を整理します。
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近年、金融犯罪対策の枠組みは世界規模で強化されています。国際基準を策定するFATFが多国間枠組みを通じて対策の実効性向上を求める中、暗号資産の普及や決済手段の多様化といった技術革新により、国境を越える資金の流れは複雑化しています。こうした中、不正資金の移動は従来の銀行網だけでなく、規制や対策の隙を突く形で展開される傾向が指摘されています。特に会社設立や法人の合併、資産管理といった企業活動の「入り口」に関わる手続きは、犯罪収益の移転に利用されるおそれがあることから、FATF基準では金融機関に加え、非金融事業者や職業専門家にも適切な顧客管理措置を求めています。こうした背景から、企業実務に携わる非金融事業者や職業専門家にも対策の対象が広がり、今回のガイドライン公表につながっています。
公表されたガイドラインは、公認会計士等が特定の業務や取引(会社設立の手続きや200万円を超える財産の管理・処分など)を行う際、これまで以上に組織的かつ実効性のある管理体制を築くよう促しています。すべての公認会計士業務が対象となるわけではなく、監査証明業務は対象外です。犯罪収益移転防止法に基づき求められる本人確認や実質的支配者の確認など既存の義務について、ガイドラインでは具体的な運用の考え方が整理されています。さらに、なりすましの疑いがある取引や外国PEPs(重要な公的地位にある者)との取引といった「ハイリスク取引」では、通常とは異なる方法による本人確認などが求められます。このうち、200万円を超える財産の移転を伴う場合には、資産や収入の状況についても確認が必要となります。これらの確認記録や取引記録は7年間の保存が求められるほか、不審な兆候を検知した際の「疑わしい取引の届出」への対応、使用人への教育訓練、事務所の規模や実態に応じた統括管理者の選任など、全組織的なリスク管理態勢の構築に努めるべきとされています。
今回のガイドラインの中心となる考え方が、国際的なマネー・ローンダリング対策(AML)の標準となっている「リスクベース・アプローチ」です。これは、すべての顧客や取引を一律に同じ方法で管理するのではない点に特徴があります。直面するマネロンリスクを公認会計士等自身が適切に特定・評価し、そのリスクの大きさに応じて管理措置を変えるという国際基準に準拠した考え方です。例えば、地理的特性や事業環境、関係当局の制裁リストなどを勘案してリスクが高いと判断した顧客や取引に対しては、追加的な情報の入手や管理者の承認獲得を含む「厳格な顧客管理(EDD)」を実施することが求められます。一方で、リスク評価の結果、リスクが低いと判断される顧客や取引については、法令上必要な確認を前提に、情報の更新頻度などを調整する「簡素な顧客管理(SDD)」を行うことが認められています。
このガイドライン策定による影響は、大手監査法人だけでなく、中小の会計事務所にも影響します。また、連携する税理士法人や、サービスを利用する一般企業、スタートアップにも実務面で間接的な影響が及ぶ可能性があります。公認会計士等の側では、事務所の規模に応じたリスク評価書面の作成や、情報の蓄積・整理といった実務対応が必要となります。同時に、企業側にとっても財務相談や各種手続きの過程において、実質的支配者が誰であるか、取引の真の目的や資金源はどこにあるかといった点について、会計士側からこれまで以上に詳細な説明や客観的な証跡を求められる場面が増える可能性があります。スタートアップの新規設立やM&A、海外取引を行う企業にとっては、透明性の高い情報開示を行うことが、円滑に手続きを進める上で重要になる可能性があります。
今回のガイドライン策定は、単なる特定の専門職に対する規律強化の動きにとどまりません。グローバル社会における金融犯罪対策は、すでに金融業界という限られた枠組みを越え、士業、不動産業、暗号資産交換業、国際送金、企業設立サービスなどを含んだ「経済活動全体」へとその対象を拡大させています。日本においても、経済安全保障の重要性や国際的な資金管理の厳格化が進む中、マネロン対策は金融機関の義務という限定的な位置づけから、健全な企業活動全体で取り組むべき共通の課題となりつつあるとみられます。今回のガイドラインは、金融犯罪対策を経済活動全体へ広げる流れを示しているといえそうです。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)













