今回のニュースのポイント
厚生労働省が公表した令和7年度の臓器移植実施状況に関する報告書によると、脳死下での臓器提供者数は155人に達し、前年度の139人から増加して過去最多を更新しました。主要臓器の移植件数も増えているものの、医療機関に移植希望登録を行っている待機患者数は腎臓だけで1万5,018人にのぼるなど深刻な状況です。日本の移植医療は極めて高い生存率を誇る世界水準の成果を上げている一方、提供数と需要の圧倒的な乖離は解消されておらず、社会全体の意思表示のあり方が改めて問われています。
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厚生労働省の最新報告によると、国内の臓器移植の実施環境は提供件数の面で着実な拡大をみせています。令和7年度における脳死下での臓器提供者数は155人となり、令和6年度実績の139人から16人増加しました。これに伴い、実際の移植実施数も心臓126件、肺149件、肝臓141件、腎臓293件と、ほぼすべての主要臓器で前年度実績を上回る推移を示しています。長年にわたる医療機関の体制整備が実を結び、救急医療や脳神経外科などの高度な現場からの提供機会が着実に社会へ定着しつつある傾向がデータからうかがえます。
しかし、こうした提供数の増加トレンドをもってしても、移植を待ち望む膨大な患者層の需要を埋めるには到底足りないのが冷徹な現実です。各年度末時点の移植希望登録者数を精査すると、腹部の腎臓が1万5,018人にのぼり、胸部の心臓が786人、肺が623人、肝臓が550人に達しています。特に慢性腎臓病などから人工透析を余儀なくされている患者を多く抱える腎臓分野では、脳死下・心停止下を合わせた腎臓移植実施数は年間529件にとどまり、待機患者数は1万5,018人に達しています。提供側のパイが着実に増えたとしても、万人単位で滞留する登録患者を前に、現在の提供ペースでは需要との差はなお大きいのが現状です。
この需給ギャップにおいて極めて逆説的なのは、日本の移植医療における技術水準や術後の成績が、世界トップクラスの成果を上げているという点です。同省が公表した、法施行日以降に実施された移植手術の1年生存率データを見ると、心臓96.6%、腎臓96.6%、膵臓95.8%、小腸94.2%、肺90.9%、肝臓88.3%と、主要臓器はいずれも9割半ば前後という非常に高い治療成績を収めています。同様に、体内で移植臓器が機能し続ける指標である「1年生着率」でも心臓96.6%、肺90.9%、腎臓90.6%ときわめて良好な数値です。つまり、日本の移植医療が直面しているボトルネックは手術の成否や技術的な質ではなく、ひとえに「移植に回せる臓器そのものの絶対的不足」という一点に収斂しています。
なぜこれほどの高水準な医療が現場で行き詰まるのか、その背景には社会全体の意思表示の浸透不足という高い壁が存在します。内閣府の世論調査によると、自身の臓器提供について「意思表示をしている」と回答した人はわずか19.9%にとどまっており、全体の76.7%が「意思表示をしていない」と回答しています。
意思表示をしている人の内訳を見ても、提供する意思がある人が14.8%、提供しない人が5.1%であり、決めていない、あるいは表明していない人が圧倒的多数という構図です。運転免許証やマイナンバーカードへの意思表示欄設置などの周知が進み、脳死下での提供体制を整える施設が465施設(うち18歳未満対応332施設)まで整備されても、意思表示が社会全体に広がらなければ、整備された医療インフラを十分に活用することは難しい状況が続きます。
臓器移植は、単なる個別の外科手術や最先端治療の話にとどまりません。限られた貴重な医療資源を社会全体でいかに共有し、制度として支え合っていくかという、国家の重要な社会資本・公共政策課題そのものです。厚生労働省は、これまで日本臓器移植ネットワーク(JOT)が一手に対応していた眼球を除く臓器のあっせん業務について、指定機関を複数化して中部日本臓器提供支援協会(CODA)の新規参入を許可するなど、運営体制の見直しに乗り出しています。
しかし、こうした制度改革をどれほど進めようとも、患者の命を繋ぐための原動力となるのは国民一人ひとりの理解と意思表示の広がりです。技術も制度も整いつつあるなか、最後に問われるのは社会全体の参加であるという視点が、これからの医療政策を左右する重要なテーマになります。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)













