EUガス貯蔵率75%、冬の調達に課題 中東危機で輸入費用最大330億ユーロ増と推計

2026年10月28日 10:12

LNGターミナルとタンカーイメージ

LNGタンカーと天然ガスの受入・貯蔵施設。EUではガス貯蔵率が10月21日時点で75%となり、冬季のLNG確保と調達費用の上昇が課題となっている(イメージ画像)

今回のニュースのポイント

欧州連合エネルギー規制当局協力庁(ACER)は10月27日、欧州の天然ガス市場に関する報告書を公表しました。EUの地下ガス貯蔵率は10月21日時点で75%となり、過去の水準を下回っています。中東危機による2026年夏のガス輸入費用増は180億~330億ユーロと推計されました。また、米国産LNGはEUのLNG輸入の64%を占めています。冬の供給を確保するには、貯蔵量に加え、LNG調達と価格動向が重要になります。

本文
 欧州連合エネルギー規制当局協力庁(ACER)は2026年10月27日、欧州の天然ガス卸売市場に関する最新の動向分析報告書を公表しました。報告書によると、欧州連合(EU)域内の地下ガス貯蔵率は、暖房期を控えた10月21日時点で75%にとどまっています。例年と比べて2026年夏季の在庫積み増しペースは鈍く、冬季の需要期に向けた供給余力の確保が課題として浮上しています。さらに中東情勢の緊迫化に伴い、2026年夏の欧州のガス輸入費用は平時に比べて最大330億ユーロ増加したとの推計が示されており、エネルギーの調達数量と費用の双方が欧州経済に重荷となっています。

 ガス貯蔵の補充が遅れた背景には、前冬の終了時点における初期在庫の低さがあります。2025~26年の冬を終えた時点でEUの貯蔵率は28%まで落ち込み、前年同期の34%や過去9年間の冬終了時平均である約40%を大幅に下回っていました。加えて、2026年夏場はガス現物価格が高止まりしたことや、夏と冬の価格差が縮小・逆転して夏季に注入を進める商業的妙味が薄れたこと、貯蔵目標に関する各国の柔軟な運用などが重なり、注入速度が鈍化しました。特にEU全体の貯蔵能力の約3分の1を占めるドイツやオランダにおいて補充の遅れが目立っています。

 貯蔵量の伸び悩みに加え、ガスの貯蔵に必要な調達費用も高い水準となっています。2026年夏の純貯蔵注入量は約430億立方メートル(約490TWh)にとどまり、過去10年平均の約470億立方メートル(約540TWh)に届きませんでした。一方で、注入のために要したガスの購入費用は、ACERの推計で約270億ユーロに上っています。エネルギー危機下で歴史的高騰を記録した2022年の約1,080億ユーロには及ばないものの、注入ガスの平均価格水準としては過去10年で2番目の高値を記録しました。なお、この270億ユーロは市場価格に基づく試算値であり、実際の個別契約の支払い総額とは異なります。

 中東危機による供給環境の悪化は、輸入費用全体を大きく押し上げました。ホルムズ海峡を経由するカタール産液化天然ガス(LNG)の輸送停滞などを契機に、欧州市場は代替カーゴを巡ってアジア勢との激しい買い付け競争に直面しました。ACERは、中東危機がなかった場合との価格差を基に、2026年夏のEUのガス輸入費用が180億~330億ユーロ押し上げられたと推計しています。ただし、これは市場価格を用いた概算であり、長期契約や価格ヘッジなどを反映した実際の支払額を示すものではありません。また、ガス火力発電の燃料費増を通じて域内電力価格にも波及しました。

 欧州の調達構造においては、米国産LNGへの依存が一段と強まっています。2026年夏、米国産LNGはEUのLNG輸入量全体の64%を占めるに至りました。ただし、欧州のLNG輸入全体が前年同期比14%減少し、米国からの輸入量自体も前年同期比9%減少しているため、シェア拡大は輸入総量の縮小下で起きた現象である点に留意が必要です。一方、段階的な契約削減が進むロシア産LNGもEUのLNG輸入の14%を占め、パイプライン経由を含むロシア産ガス全体はEUの総ガス輸入の約11%を維持しています。米国産への供給依存度の偏りと、調達元の多元化という課題が改めて浮き彫りとなっています。

 さらに、2026年夏季の記録的な熱波と発電構成の変化も、ガス確保を難しくした一因となりました。冷房需要の拡大によって電力消費が増大するなか、河川の水位低下や水温上昇により水力発電および原子力発電の稼働が制約を受けました。日中の太陽光発電が力強く拡大したものの、日没後などの発電量が乏しい時間帯を補うため、EUのガス火力発電量は前年同期比で8.7%増加し、8月単月では前年同月比20%増に達しました。旺盛な発電向けガス需要が継続したことが、夏季の貯蔵向け注入に回せるガス余力を圧迫する要因として作用しました。

 冬の供給展望についてACERは、冬のガス需要と冬末の貯蔵水準が前冬並みとなる基準シナリオで、LNG受入基地からガス網へ送り出す量が約780億立方メートル必要になると試算しています。これは過去の冬に観測された最大級の受入実績を上回る規模であり、直ちに物理的な供給途絶を意味するものではないものの、調達ハードルが高いことを示唆しています。暖冬の到来や秋以降の貯蔵注入の継続は市場の緊張を和らげる要因となる一方、寒波の襲来や中東危機の長期化はアジアとの獲得競争を一段と激化させかねません。貯蔵率の水準だけでなく、LNGの確保数量、市場価格、そして冬季の消費動向の組み合わせが、今後の欧州のエネルギーコストを左右することになります。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)