外食産業の売上アップの立役者であるモバイル、震災時にも多大に貢献

2011年04月11日 11:00

 東日本大震災においては、携帯電話が情報を確認できるツールとしてその存在感を発揮している。例えばソフトバンクの安否情報の登録・確認・削除・自動Eメール送信設定などが出来る災害用伝言板サービスアプリ「災害用伝言板」や、KDDIの「緊急地震速報」など、今なお余震が続く中、被災者にとって心強い情報源となっている。

 携帯電話が一般的に普及しはじめて30年近い月日が経ったが、時代と共に機能も進化し、その役割も電話としての機能にとどまらず多様化してきた。近年では、各企業が、不況により低迷する個人消費を喚起しようと、モバイルを利用した戦略を模索しているようだ。なかでも外食産業やサービス産業はここ数年、モバイル会員によるユーザーの誘致活動が盛んに行われ、売上げアップに直結している企業も少なくない。

 モバイル会員は、店舗などでQRコードに携帯をかざすと簡単に登録することができ、以降はメールにて割引クーポンなどの特典や、有益な情報が記載されたメールマガジンが次々に送られてくることから、不況下でもユーザー心理を動かし、昨今の会員数はどの業態企業も大幅に伸長。効果的な認知拡大ツールとして大いに活用されている。

 以前からメンバーズカードは存在しているが、一昔前は、会員になるには店舗に備え付けられた申込書に必要事項を記入し、受付箱に入れるという流れが主流で、買い物時にカードを提示すると割引などサービスの権利が獲得できるという仕組みだった。しかし、企業側もDMを送る回数が増えることでコストがかかり、また、会員となった消費者もカードが多くなると持ち歩くカードを選ぶことから、自然と活用しなくなる傾向にあったという。しかしモバイル会員だと割引クーポンも印刷する必要はなく、注文時に画面を見せるだけで使える。会員登録が無料なため、ヘビーユーザーでなくとも登録したほうがお得ということになるのだ。

 外食産業でモバイル会員戦略により売上を拡大した先駆者といえば、やはり日本マクドナルドホールディングスが挙げられるだろう。2008年度、国内外食産業初となる年間売上5000億円に達した同社だが、この売り上げアップに貢献した最大の要因が割引クーポンがもらえるモバイル会員戦略だと考えられている。同社は2003年にモバイルサイトを開設。口コミによりお得というメリットが確実に広まっていき、2010年10月現在で会員数は約1900万人にまで達しているという。

 このマクドナルドのモバイル会員向けサービスは、割引クーポンが直結的に売上拡大へとつながった代表的な事例となるが、最近では、その他の企業も独自のカラーを出したモバイル戦略を打ち出しているようだ。例えばすかいらーくは2008年7月にモバイルサイトをオープン。登録すると、同社の「ガスト」「すかいらーく」「「バーミヤン」「夢庵」ジョナサン」などグループ店舗で使える割引クーポンが定期的に配信されるのがポイントとなっている。また、関西を起点に、中部、関東に「和食さと」を中心に約200店舗展開するサトレストランシステムズは、2009年6月よりモバイル販促をスタートさせ、2010年7月に全システムを変更して本格的に開始。また、同年4月には、小学生以下の子どもを対象とした「さとキッズくらぶモバイルサービス」も開始している。

 元々、サトレストランシステムズは和食がメインということもあり、コアユーザーの世代層が40~50代以上と高年齢層にあったことから、既存ユーザーは得意とする和膳メニューの改編などで持続的獲得を促し、新規の低年齢層やファミリーユーザーを獲得する動きの1つとして、このモバイル戦略に本格的に参戦したようだ。なかでも、小学生以下の子どもを対象とした「さとキッズくらぶモバイルサービス」は、フードをモチーフにしたストラップのプレゼントや、記念日には家族全員ドリンクサービス、出展しているキッザニア甲子園への招待券やプロ野球の観戦券プレゼントなどもあり、さらに新メニューのアイデアを絵に描いて送るというコンテストなども展開。グランプリになったアイデアは実際、キッズに人気の「板前すしセット」の1品に組み込まれるなど、子供心をワクワクさせるコンテストも行い、ファミリー層での集客を行っている。若い世代に認知されている、しゃぶしゃぶの食べ放題メニュー「さとしゃぶ」と合わせて、ユーザーの世代層拡大を積極的に展開することが、現在の黒字経営の一端を支えているようだ。

 しかし今回の震災による自粛ムードから、各社モバイル会員への情報配信を休止する動きも出ている。確かに首都圏においては、電力不足などにより、震災前の経済活動に戻るには多くの時間を要するだろう。しかし、日本の経済を支えていくためには、関西圏を中心とした直接的被害を受けなかった西日本が通常の消費活動をしていくことが、長期的な被災地の支援につながるのではないだろうか。「こんな時だから関西が元気でいること」。大阪に本社を構えるサトレストランシステムズも、義援金などで被災地を支援しているが、まずは、関西圏で美味しい食事を届けるという、飲食業としての使命を全うすることが大切と考え、動きはじめたようだ。