ダイバーシティ経営、バランスを失し本末転倒になってはいないか

2013年03月26日 08:00

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ダイバーシティ経営は理念としては認知度が高まりつつあるものの、一部の先進的な企業を除き、多くの日本企業では動きは鈍いのが現状である

 女性、外国人、高齢者、障害者を含め、多様な人材の積極的活用を進め、一人一人が能力を最大限発揮して価値創造に参画していくことを目指す「ダイバーシティ経営」。理念としては認知度が高まりつつあるものの、一部の先進的な企業を除き、多くの日本企業では動きは鈍いのが現状である。こうした中、経済産業省が、様々な規模・業種の企業における「ダイバーシティ経営」への積極的な取組を「経済成長に貢献する経営力」として評価し発信することで、ダイバーシティ推進のすそ野を広げることを目的として、「ダイバーシティ経営企業100選」事業を開始。3年程度をかけて累積100社の表彰を目指すとして今年度より開始された本事業において、初年度の選定企業43社を発表した。

 建設業から選定されたのは重松建設とグリーンライフ産業の2社のみ。いずれも女性の積極的採用、男女の区別がない職場であることを大々的に謳っている。一方、製造業からは23社が選定されており、キリンホールディングス<2503>やサントリーホールディングス、日産<7201>や資生堂<4911>、日立<6501>に東芝<6502>など、大手企業が数多く名を連ねている。しかしこれら大企業の多くは、女性・シニア・障害者・外国人を積極的に雇用していることや、その理念をアピールするばかりであり、具体的な取り組みが一切見えてこない。その他、情報通信業から4社、卸売・小売業から6社、金融・保険業から2社などがそれぞれ選定されているが、どこも似たようなもの。女性管理職数の拡大や定年延長による高齢者雇用、特別子会社を設立して障害者を雇用し、外国からの研修を受け入れる。こうした取り組みを表彰することにどれだけの意味があるのであろうか。

 男女の雇用や登用の均等を謳うのであれば、女性の「積極的」な登用は特別評価されるべきものではなく、「消極的」であった場合に初めて非難されるべきものであろう。また、高齢者雇用に関しても、将来的に労働力が不足することは確実視されるものの、現状としては若年者の雇用状況も芳しくない。高齢者の年金を支える若年者の雇用を奪うことは本末転倒であろう。高齢者を継続雇用することによる若年者への技術伝承を進めるとする企業もあるが、本来なら定年までに完了しておくべき仕事である。障害者雇用に関しては、障害者雇用率が定められ、企業規模に応じた雇用がすでに義務付けられている。こうした制度自体が「健常者と障害者とを区別するもの」として差別的な扱いであるとの意見もあり、手放しで歓迎されるものではない。

 「ダイバーシティ経営」とは、働き方も含めた多様な人材の積極的活用を進めるものである。これを噛み砕けば、「働き方の多様性を受け入れる」「どんな人であろうと特別扱いをしない」ということになろう。そして、その意識を広め、定着させることが重要なものである。しかし、実際に「ダイバーシティ経営企業100選」事業及び選定された企業からはその意識が感じられず、バランスを失している。目標・理念とその手段に齟齬がある政策で、本当に「一人一人が能力を最大限発揮した価値創造」、ひいては日本の成長を実現できるのであろうか。(編集担当:井畑学)