2011年に起こった3.11以降、日本国内では省エネ化に向けた動きが年々活発になっている。さらに今年は電力各社が値上げに踏み切るということもあり、企業や家庭における節電への意識は一層高まりをみせている。そんな中、エネルギーの使用の合理化に関する法律(通称省エネ法)の改定などもあり、省エネ性能を表す指標として、APF(通年エネルギー消費効率)が注目されているようだ。
このAPFとは、最近、家電量販店などでよく、年間消費電力という形で表示されているもの。今まで家電は最大消費電力などで表わされていたが、中には実際の使用時に常時最大消費電力がかからない製品があるため、一定の条件下での計測を行うことで実際の使用条件に近い数字を表わすこのAPFにより、実使用状態に近い省エネルギー性の評価が得られるという。これらの家電の省エネ性能に大きく寄与するのが、パワー半導体と呼ばれるトランジスタであり、より高効率な製品を登場させるため、半導体メーカー各社が競うように開発しているという。
これまで一般的に高効率性を求めるトランジスタならMOSFETと呼ばれる製品がよく使用されていたが、エアコンなどのように一時的に大きな電力を扱う必要がある場合は、IGBTと呼ばれる少し効率は落ちるが耐圧性の高い製品が使用されてきた。実際エアコンの場合は、通常運転などの低電力時であれば、MOSFETを使用したいところであるが、急速運転や室外機に大きな負荷(たとえば台風)がかかった場合に大電力でモーターを回す必要があるため、念のためIGBTが使用されるといった傾向にあったという。しかし、エアコンの年間消費電力を表す上で大きなウェートを占めるのは通常運転時であるため、高効率のMOSFETが使用できるのであれば、使用したいという思惑がメーカーサイドにはあったようだ。
そのような中、ローム<6963>は、このMOSFETとIGBTの長所を結集した新構造トランジスタ「Hybrid MOS」を開発している。定常運転時はMOSFETの高効率性能を利用し、突発時はIGBTで対応するため、低電流領域から大電流領域までフルレンジでの省エネ化が可能になる。同社はこの製品を2013年の夏頃にサンプル出荷する予定としており、このトランジスタを投入した新製品の早期市場投入が期待されているという。
今年の夏も電力需要の逼迫が予想されるが、行き過ぎた節電は、経済活動を停滞させると同時に、日々の生活や健康にまで支障を及ぼすリスクがある。電気製品に囲まれて生活や経済活動が営まれている現在社会において、無理なく効率的に電力を抑えるためには、節電に対する「意識」だけでなく、エネルギーを効率化する最新の「技術」が必要なのではないだろうか。猛暑を乗り切るためにも、エアコンのように電力消費が激しい商品を効率的に省エネ化するこうした最新技術の実用化が待ち遠しいところだ。(編集担当:加藤隆文)