バイクやロボット作りで培った技術を電動車イスに

2010年09月21日 11:00

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ヤマハ発動機は90年代前半から車イス用電動ユニットの開発に着手し、パワーと軽さ、機動性を兼ね備えた新しい車イスの形を提案することに成功した。(写真は車イス用電動ユニット「ジョイユニットX」)

 創業以来、感動創造企業という理念のもと、乗り物の便利さ、楽しさを我々に提供し、移動具の進歩に貢献してきたヤマハ発動機 <7272>。それは、速さへの挑戦、快適性の追及など、常に新しい技術で乗り物に新たな価値をもたらしてきた。そんな乗り物に関するスペシャリストとして、国内のみならず、地球規模でグローバルな展開を図っている同社だが、実は車イスの分野でもビジネス展開を広げていることは、世間一般にはあまり知られていないだろう。

 同社が、電動車イスの開発に乗り出したのは1990年代前半のこと。世の中の役に立つ乗り物を手掛けたいという想いから、今までにない新しい車イスの世界を提案することを目指した挑戦がはじまった。開発にあたって考えたことは、歩行弱者の立場に立って考えるということだったという。それまでバイクやロボットの開発を担当していた社員たちが集まり、それぞれが持つ技術や経験を生かしながら、電動車イスの試作品を作り上げていった。歩行弱者といっても、その症状は多岐にわたり、さらに健常者にはわからない心理的な要素なども考慮しなければならない。何度も試作品を作り、歩行弱者本人に実際に乗ってもらい、意見を聞きながら試行錯誤を繰り返した結果、行き着いた答えが電動ユニットを車イスに装着するという方法だった。

 車イス用電動ユニットとは、手動の車イスを電動に切り替えることが出来る装置。手動の車イスは、坂道などでの負担が大きく、長距離や長時間の走行では疲労度が大きくなってしまう。一方、それまでの電動車イスは、重いため持ち運びに苦労するほか、小回りがきかないので狭いところや人ごみでの走行には適していなかった。これらの問題点を解決し、パワーと軽さ、機動性を兼ね備えた新しい車イスの形を提案することに成功したのが、1995年に発表された車イス用電動ユニット「JW‐Ⅰ」だった。

 その後は、同社の電動アシスト自転車PASのパワーアシストシステムを応用し、手動車イスのハンドリムをこぐ力を、電気の力で補助するシステムを車イスに取り入れた、ユニット「JW‐Ⅱ」も開発。アシスト性能を搭載したことで、ハンドリムを動かす力の負荷を軽減させるのはもちろん、腕の筋肉を使うことで残存能力の維持ができ、さらには手首やひじ、肩のケガ予防にもつながったという。この「JW‐Ⅱ」の発売は、結果的に、多くの歩行弱者に社会参加する機会をもたらしたと言えるだろう。

 20年近く前、世の中に役立つ乗り物を作ろうという志しのもとスタートしたヤマハ発動機の電動車イス作り。現在、簡易型電動車イスでは国内で80%のシェアを誇り、海外の車イスメーカーにもユニットを提供しているという。高齢化が加速する社会全体の流れ相まって、着実にその事業規模を拡大し続けている。同社には、「外を出歩くことを諦めていたけど、電動車イスを使うことで、もう一度外の世界に触れることができた」というような感謝の手紙も多く届いているという。バイクやロボット作りで培ったヤマハ発動機の技術や経験は、車イスという分野でもしっかりと生かされているのだ。
(編集担当:北尾準)