カードの暗証番号や、インターネットでのアカウント認証、住宅のオートロックなど、現代社会で生活する上で「パスワード」を使う機会は非常に多い。パスワードがあるおかげで、セキュリティが保たれながら、便利なサービスを受けることができる。しかし、その反面、複雑なパスワードを忘れてしまうと、その途端にサービスを受けられなくなって、呆然としてしまうことも少なくない。
また、鍵も同様だ。鍵のおかげで家屋への侵入や大切なものを守ることができるが、一旦失くしてしまうと、その強固なセキュリティシステム自体が敵に回ることもある。そのくせ、鍵穴を有するようなセキュリティシステムは、プロにかかると案外容易に破られてしまうものだ。
そこで期待されているのが生体認証システム。すでに住宅のセキュリティシステムやノートパソコンの認証など、身近な場面でも導入が進んでおり、特別に未来の技術のような印象はなくなった。指紋や声紋、網膜や虹彩、静脈のパターンなど、あらゆるパーソナルデータをパスワードにした生体認証が開発されているが、今回開発された技術は、その中でもまさに究極ともいえる生体認証システムだと話題になっている。
そのシステムの名称は、脳波認証システム「passt-houghts」。なんと、脳波のパターンでID認証する生体認証システムなのだ。カリフォルニア大の研究チームが開発した、この脳波をパスワード代わりにするシステムは、ワイヤレスで検知した「Pass-thoughts」(パス思考)をユーザー認証に使用するも。たとえば映画の名台詞や好きな歌のフレーズ、記念日の記憶、愛車のイメージや好きな漫画のキャラクターなど、何でもパス思考になりえるのだとか。
一万円程度で市販されている脳波センサー付きヘッドセットをシステムとBluetoothで接続し、わずか10秒間ほど集中してイメージするだけで、登録した脳波と照合して個人認証してくれるという。
脳波は、たとえ同じものをイメージしても個人によって異なり、しかも指紋や網膜認証のように偽造や不正利用がしにくいことから、早くから生体認証への応用が期待されていたが、同一人物のものであっても、脳波は日によって違うこともあり、実用化は不可能だと言われてきた。しかし、今回の実験の結果では、試したどの思考による脳波も、99パーセントの確率で特定に成功したという。
また、脳波をパスワードにするメリットはセキュリティレベルの高さだけでなく、システムに利用する装置が簡単だということだ。これまでの、他の生体認証は大掛かりで効果な装置が必要であったことも普及が進まない原因といわれていたが、このシステムが実用化されれば一気に脳波認証システムの普及が進むのではないかといわれている。
ただし、その一方で、脳波を読み取る技術が確立されることによって、たとえば思考を読み取ってパーソナルデータを抽出するなど、新たな犯罪を生み出してしまうことになるのではと懸念する声もあがっている。(編集担当:藤原伊織)