電力損失を大幅に低減する革新的な新技術

2013年06月29日 20:07

ローム①640×480

エネゲート、関西電力、ロームは、フルSiCパワーモジュールを用いたUPSの試作に成功し、3社間で製品化に向けた開発計画を推進することに合意したと発表。

 東日本大震災は、我々の社会に大きな変化と教訓をもたらした。節電や計画停電などを経て、エネルギー供給問題が明らかになったことで、震災以降のエネルギー関連技術の開発は加速度的に進んでおり、2007年に政府が発表した低炭素社会への動きも着実に実現へと向かっている。中でも、とくに革新的技術開発は急務とされており、電気エネルギー利用効率の向上が強く求められている。

 電気エネルギーの利用効率を高める上で、まず考慮しなくてはいけないことは、電力損失の問題だ。電力会社が販売する電気は電圧や周波数が一定だが,負荷の方は機器や用途によって様々な電圧や周波数を要求する。そのため、発電から消費に至るまでには数多くの電力変換の過程が必要になるが、その際にどうしても起こってしまう電力損失の低減と信頼性の確保が強く求められる。それだけに、とくに供給側の電力会社にとっては非常にデリケートな問題でもあるのだ。

 そのような状況の中、株式会社エネゲート(大阪市)、関西電力<9503>(大阪市)、ローム株式会社<6963>(京都市)は3社共同で、電力変換損失を3割低減する試作装置の開発計画を推進することを発表した。

 エネゲート、関西電力、ロームの3社は、シリコンカーバイド(SiC)の電力損失が少ない点に着目し、2010年12月から、SiC製パワー半導体素子を用いた無停電電源装置(UPS)の開発に取り組んできた。そしてこの度、フルSiCパワーモジュールを用いたUPSの試作(定格容量30キロボルトアンペア)に成功したことを受け、2013年6月20日、3社間で製品化に向けた開発計画を推進することに合意したものだ。

 UPSは一般家庭のパソコンなどの身近な通信機器からOA機器端末、生産設備の制御装置、通信インフラなど、さらには発電所や変電所にいたるまで、あらゆる電力設備に使用されている。また、「無停電電源装置」という名が付いてはいるが、停電時以外でも、装置内を流れる電流と電圧の変換を行っており、この際の電力損失の低減が課題となっていた。

 一方、ロームは、電力制御機器等にむけて、電力変換効率の向上が期待できるSiCパワー半導体素子を用いたフルSiCパワーモジュールの製品化を世界で初めて発表。2012年の3月から量産を開始しており、関西電力とエネゲートはこれについて採用の検討を重ねてきた。

 今回、両社は大阪大学大学院の舟木剛教授や公益財団法人鉄道総合技術研究所などの専門家の助言を組み入れながら、ローム製フルSiCパワーモジュールを適用したUPSの試作品を開発し、基本的な動作を検証した結果、従来のUPSに比べで電力変換損失を約3割低減できることを確認した。ちなみに、この試作装置と同等容量のUPSでは、電力変換効率が国内最高水準を達成しているという。

 仮に、国内のUPSが全てフルSiCパワーモジュールを適用したUPSに置き換われば、10万キロワットを超える電力損失が低減され、省エネ・省CO2に貢献できる可能性が高まる。10万キロワットといえば、一般的な家庭約3万世帯の1年分の電力消費量にほぼ等しい。また、2012年8月に売電事業に参入すると表明したイオン<8267>が、130億円の予算を投じて、14年度末までに全店舗の約4割に当たる1690店舗に太陽光パネルを設置し売電するとしているが、これで得られる発電能力が、およそ10万キロワットだという。

 早期の製品化を目指して、エネゲートと関西電力が商品化のための検証を進めていくというが、これが製品化されれば、日本国内のみならず、海外諸国でもこぞって採用されることが予想され、その経済効果は計り知れない。

 また、エネルギーや環境の問題は本来、一国のみで語らず、世界規模で考えるべきものだ。震災で大きく傷ついた国だからこそ、世界のために率先してエネルギーの無駄を省く努力を進めていきたいものだ。(編集担当:藤原伊織)