降圧剤バルサルタン(商品名ディオバン)臨床試験疑惑で、発売元の製薬会社のノバルティスファーマ(東京)は、7月29日、第三者機関による調査結果を発表した。スイス本社が委託した第三者機関による調査結果は、「データ捏造、操作、改ざんなどの証拠は認められなかった」としており、真相解明にはほど遠いものだった。
昨年度国内で、最も売れた医療医薬品を巡る、疑惑が表面化したのは今年2月。府立医大は、カルテまでさかのぼって、検証し「データは操作だった」と判断している。
スイス本社が委託した第三者機関の調査結果からは、データ操作に関与した形跡はないとしている。一方で、社員が不適切な関与をしてきた各大学の論文を、薬の宣伝に利用してきたことについては問題があったことを認めているようだ。
バルサルタンの臨床試験は、東京慈恵会医大、府立医大、滋賀医大、千葉大、名古屋大の5大学で、実施された。同じ社員(すでに退職)が全ての試験に関与していたのに、論文にはその社員が関わったことが伏せられていたことが発覚、問題が拡大した。
二之宮社長は、「我々の手元には試験で使われたデータがない、だれがやったか私も知りたい」と話している。府立医大の調査に対しては、データに触れ得る立場の研究者は不正への関与を否定しているとしている。
一方ノ社側の調査に対しては、試験に関与した元社員も不正を否定しているという。ノ社は、今後、臨床試験に関与した5大学の調査に、協力する意向を示したが、果たしてノ社の調査が十分であったのか、疑惑はさらに深まりそうだ。
この問題に対して、積極的に説明責任を果たそうとしなかったノ社の対応にも、疑惑を深める要因があろう。ノ社は府立医大の論文が撤回された当初、大学が主導したものと動かなかった。
ようやく動き出したのが、元社員が統計分析に関与していたことが疑惑となって表面化してからだ。疑惑が深まり続ける中、11日に府立医大が、「データ操作があった」とする調査結果を発表。それを受けて厚生省は、大臣直轄の有識者会議で、調査することを決めた。
患者や臨床現場での不信感は高まるばかりであった。そんな時のノ社の「証拠なし」の調査結果報告である。真相は依然として藪の中である。薬を処方する医療現場や、患者は今後も不信を募らせるばかりであろう。(編集担当:犬藤直也)