市場予測を下回った3本も0.1~0.3ポイントという小さな差で、生産者物価指数(PPI)が唯一のマイナス成長。生産者物価には原材料の調達価格も含まれるが、それはPMIの調査対象の「製造業購買担当者」が日々接している価格である。
「世界の工場」中国にとって重要なその原材料の調達価格が、低迷していた7月と8月とでは様相が一変している。たとえばロンドン金属取引所(LME)の7月31日の価格と8月15日の価格を比較すると、銅は+7.94%、アルミは+6.46%、鉛は+8.21%、亜鉛は+5.94%、ニッケルは+8.19%、スズは+9.42%と、全て上昇した。ロンドン金市場の現物価格も、底値圏で今がチャンスと見た中国人の旺盛な金買いも起きて1.16%上昇した。
鉄鉱石の価格になると7月と8月の違いは顕著だ。中国向けスポット価格(鉄分62%粉鉱)は7月31日時点で1トン当たり116ドルだったが、8月15日には143ドルで実に23.2%も上昇している。世界の鉄鉱石生産の大手企業のBHPビリトン、ヴァーレ、リオ・ティント、アングロ・アメリカンの株価が8月に入って軒並み上昇しているのは、ひとえに中国向け鉄鉱石価格が急上昇しているからである。鉱物資源を鉱石運搬船で輸送する運賃の基準になるバルチック海運指数も、その間に2.73%上昇した。
原材料の調達価格が上がれば、企業により程度の差はあれ製造業の生産が増加して需給が引き締まり「購買担当者」は調達に追われているはず。その購買担当者に景況感を聞くのがPMIという指標である。8月のHSBC中国PMIが改善する要素はたくさんあっても、悪化するとはちょっと考えにくい。
中国の景気の底打ちは株価にも現れている。上海総合指数は7月31日から8月15日までの間に4.41%、香港ハンセン指数は2.99%上昇した。中国の鉱物資源の主要輸入国はオーストラリアとブラジルだが、シドニー株式市場のS&P/ASX200指数は7月31日から8月15日までの間に1.98%上昇し、サンパウロ株式市場のボベスパ指数は同じ期間に5.54%上昇している。
東京市場で関連する主力株を思いつくまま挙げて、7月31日終値と8月16日終値を比べて騰落率を出してみると、「中国関連銘柄」のコマツ<6301>+3.97%、日立建機<6305>+2.48%、ファナック<6954>+1.07%、ダイキン<6367>+13.1%、日産<7201>+0.77%、三菱商事<8058>+5.81%、三井物産<8031>+6.46%、「資源関連銘柄」の住友金属鉱山<5713>+8.59%、三菱マテリアル<5711>+15.60%、「海運銘柄」の商船三井<9104>+6.87%、日本郵船<9101>+7.35%、川崎汽船<9107>+10.44%と、全てプラスになっていた。その間に日経平均は0.13%下落していた。
このように、中国の経済指標はまちまちでも直近の資源価格や、中国や資源輸出国の株価指数、日本の関連銘柄の株価は「中国の景気底入れ」の期待を高めてくれている。もし、来週22日午前10時45分(日本時間)発表のHSBCの中国PMI速報値が上昇に転じて市場予測に近い数字が出たら、5月23日に日経平均の暴落に火をつけて7月まで4ヵ月連続で下がり続けたビターな経済指標だけに「中国の景気減速は終わった」と最終判断できる決定打になる。おそらく22日の為替はドル高になり、株価は上海市場も香港市場も東京市場も好反応を見せることだろう。
それを織り込んで、来週の日経平均終値の変動幅は9日のSQ値13640円を下限として13640~14300円とみる。悲観シナリオで中国PMI速報値が前月比で横ばい程度だったら、日経平均の上限は今週と同じ14000円そこそこに下がりそうだが、もし50をオーバーするポジティブサプライズがもたらされたら、14800円ぐらいの水準も望めそうだ。(編集担当:寺尾淳)