小泉元総理が政界を引退してから既に4年が経つ。しかし、その発言の影響力や人気は衰えることを知らない。この夏以降、その小泉氏が繰り返し「原発ゼロ」を説いている。
その発言を、生活の党の小沢一郎代表は「福島の原発事故を契機に冷静に現状と将来を考える人であれば、行き着く結論だ」と評価。社民党の福島みずほ前党首も「小泉さんが原発ゼロを訴えているので、脱原発の一点で共闘したい」との考えを示している。
また、みんなの党の渡辺喜美代表は「ものすごく勇気をいただきました」と感激したことを朝日新聞が報じている。はては共産党の市田忠義書記局長までが、「党の機関紙『しんぶん赤旗』に登場して欲しい」とラブコールである。
2011年5月の講演で「日本が原発の安全性を信じて発信してきたのは過ちだった」と述べたのが東日本大震災以降、小泉氏の原発に関する初めての発言だった。12年12月の自民党候補の応援演説でも、「原子力発電をできるだけゼロに近づけなければならない」と発言しているが、「ゼロ」とは言っていない。
ところが、今年の8月26日の毎日新聞に掲載されたインタビューで「いま、オレが現役に戻って、態度未定の国会議員を説得するとしてね、『原発は必要』という線でまとめる自信はない。今回いろいろ見て、『原発ゼロ』という方向なら説得できると思ったな」と初めて「原発ゼロ」を明言しているのだ。
また、今月1日に行われた講演で、「経済界では大方が原発ゼロは無責任だと言うが、核のゴミの処分場のあてもないのに原発を進める方がよほど無責任だ」とも語っている。
「10万年後の安全」というドキュメンタリー番組がNHKで放映されたのは、昨年のこと。そして今年の夏、小泉氏はこの番組で取り上げられたフィンランドの世界初の使用済み核燃料の最終処分場「オンカロ」を8月中旬に視察している。
この施設は20年からの稼働に向けて現在建設中のものだ。実際、9月24日に行われたビジネス雑誌の創刊50周年記念フォーラムで「大震災の後、『10万年後の安全』という番組を見たんです。衝撃的だった。自分なりに勉強して、原発はゼロにすべきだという結論にいたった」とコメントしている。このテレビ番組と「オンカロ」視察が、「原発ゼロ」発言を加速させている要因のひとつであることは間違いないだろう。
しかしながら、首相在任中は原発推進の立場だった小泉氏が、単にテレビや視察での体験だけで、考え方を180度、転換するだろうか。もちろん東日本大震災という未曾有の災害を経験したことは大きいが。
現職の官房長官がわざわざ記者会見で「わが国は言論の自由がある。いろんな議論があってもいいのでは」とコメントせざるえない程に小泉氏の「原発ゼロ」発言は、波紋を呼んでいる。しかしここで思いだしてほしい。総理大臣時代の小泉氏は、深い考えなしで勢いだけのワンフレーズポリティクスが得意だったことを。
だから今回の繰り返される「原発ゼロ」発言も、安倍政権の足を引っ張ろうという思惑よりも、単純に自身の存在を再び世間にアピールしたくなっただけではないのか。何故なら、小泉氏は70歳を超えて国のために新たな政策を実現するというようなタイプの政治家とは到底思えないからだ。とはいえ、例えば東京電力が、高濃度汚染水がタンクから流出するのを止めることさえできないのに、安倍総理が原発はコントロールされていると強弁したりする状況がある。そんな中での小泉氏の「原発ゼロ」発言。世論を素早くキャッチする直感力は衰えていない。だからこれに賛同する国民は多いだろうし、与党内でもその気運は広がっていくのではないだろうか。(編集担当:久保田雄城)