【ゼネコン大手4社の9月中間期決算】資材費と労務費の高騰が続けば「利益なき繁忙」に出口なし

2013年11月20日 06:59

 ■3社が通期の営業利益見通しを下方修正

 11月12日、ゼネコン大手4社の大成建設<1801>、大林組<1802>、清水建設<1803>、鹿島<1812>が9月中間期決算を一斉に発表した。前年同期と比べると震災復興事業の本格化、国土強靱化、アベノミクスの財政出動の矢に東京五輪開催決定も加わって受注環境が好転し4社とも増収だったが、工事原価の資材費と労務費の高騰が響いて2社が営業減益になり、通期見通しでは3社が営業利益を下方修正して前期比減益を見込むという、「利益なき繁忙」の現状を反映した内容になった。

 大成建設は売上高11.3%増、営業利益38.7%増、四半期純利益318.3%増と非常に好調だったが、通期見通しは売上高を600億円上方修正しながら営業利益は40億円下方修正して3.0%減益で、当期純利益は10.2%の減益。通期配当予想は5円で据え置いた。

 大林組は売上高10.8%増、営業利益29.8%減、四半期純利益11.0%増で営業利益が約3割減。通期見通しは売上高を1000億円上方修正しながら営業利益は20億円下方修正して31.7%減益で、当期純利益は6.1%の増益。通期配当予想は8円で据え置いた。

 清水建設は売上高8.8%増、営業利益35.8%増、四半期純利益92.4%増と好調な決算。通期見通しに修正はなく、売上高は0.4%の減収、営業利益は18.3%増益、当期純利益は1.7%の増益と手堅く利益確保できる見込み。通期配当予想は7円で据え置いた。

 鹿島は売上高0.7%増、営業利益54.8%減、四半期純利益5.2%減で、4社の中で最も良くなかった決算。通期見通しは売上高を900億円上方修正しながら営業利益は130億円下方修正して2.5%減益で、当期純利益は27.4%の減益。通期配当予想は5円で据え置いた。

 通期の業績見通しでは、景況感の回復や政府の予算執行で手持ち工事が増加し、下期は消費増税前の駆け込み需要も見込めるため、大成と鹿島は減収を増収に修正している。しかし、当期純利益は大林、清水が増益、大成、鹿島が2ケタ減益と大きく分かれた。大成、大林、鹿島は売上高を上方修正しながらも営業利益を下方修正して減益を見込み、工事採算が悪化している現状を反映させている。

 ■工事採算が特に悪化している大林組と鹿島

 建設業の決算から工事採算の改善、悪化を読み取る簡便な方法は、売上高の「完成工事高」から売上原価の「完成工事原価」を引いた売上総利益の「完成工事総利益」の数字を完成工事高の数字で割って「完成工事総利益率(%)」を算出し、それを前年同期と比較することである。

 9月中間期と前年9月中間期の完成工事総利益率を比較すると、大成は7.9%で変わらない。大林は6.7%から5.2%に1.5ポイント悪化した。清水は5.5%が5.4%に0.1ポイント下がっただけ。鹿島は前年同期は7.9%で大成と肩を並べていたが、6.2%と1.7ポイントも低下している。ゼネコン大手の連結決算ではデベロッパーとしての開発事業収入やエンジニアリングやサービス事業の収入なども売上高に入っているので単純ではないが、大林と鹿島の場合は、ひとえに工事採算の悪化が大幅な営業減益をもたらしたと言い切っても差し支えないだろう。

 工事採算の悪化とは、すなわち工事原価の膨脹。工事原価には材料費、労務費、外注費、その他経費などが含まれるが、外注費の中身までさかのぼると、大部分が材料費(資材費)と労務費で占められる。この資材費と労務費が昨年来、右肩上がりの上昇をみせていることが工事採算を悪化させ、ゼネコン各社の「利益なき繁忙」を招いている元凶である。

 ■「リストラのツケ」だから人手不足に泣き言は言えない

 資材費の高騰は、建築資材は海外からの輸入が多いために円安デメリットが出ているという見方がもっぱら。鋼材やセメントも鉄鋼メーカーやセメントメーカーが需要増を背景に価格交渉で強気に出ている。労務費の高騰については、土木工事でも建築工事でも必要な型枠工、鉄筋工や重機オペレーターを中心に人手不足が深刻。工期の都合で背に腹は代えられず、派遣会社に頼み込んで現場に人を回してもらうという話も聞かれる。売り手市場だから資格を持つ技能工も派遣会社も強気に出る。また、東北や北海道からの出稼ぎの人が震災復興事業のほうに回って東京まで来ないという話もある。

 だが、さかのぼれば「小泉構造改革」の時代に公共投資がバサバサと削減され、それにリーマンショックが追い討ちをかけた頃にゼネコン大手は何をしていたか。生き残りをかけて出血も覚悟の受注競争に走り、社内ではコストを1円でも絞り込んで利益を出そうと社員を削減し、外注先も絞り込んでリストラに邁進した。その結果、涙をのんで建設業の世界から去った人、建設業に将来の希望を見出せずに進路を変更した高校生や大学生は、山のようにいたはずだ。

 おそらく経営者は「あの時、ああしなければ会社はつぶれていた。仕方なかった」と言うだろう。それなら、リストラによる縮小均衡のツケとも言える人手不足も、それによる労務費の高騰も、「利益なき繁忙」も、自分たちが行った行為の当然の報いとして受け入れるべきで、泣き言は言えない。ましてや「何とかしてくれ」と政府に泣きつくなど、言語道断である。(編集担当:寺尾淳)