■旧勢力の業績悪化が目立った決算
11月13日、携帯・オンラインゲーム業界の7~9月期決算が出揃った。「ソーシャルゲーム」とも呼ばれるこのゲーム業界の新ジャンルが市場として確立してからまだ5年程度しか経過していないが、早くも先に成長して株式を上場した「旧勢力」と、後発組の「新勢力」に分かれ、決算で業績の差があらわれている。
ここでは業界各社を次のように分類する。
・旧勢力 グリー<3632>、DeNA<2432>(ともに東証1部)
・新勢力の代表 ガンホーオンラインエンターテイメント<3765>(東証ジャスダック)、コロプラ<3668>(東証マザーズ)
新勢力としてはこの他にKlab<3656>、モブキャスト<3664>、enish<3667>、クルーズ<2138>、ネクソン<3659>などがある。なお、スクウェア・エニックスHD<9684>、コナミ<9766>、カプコン<9697>、コーエーテクモHD<3635>などは家庭用ゲーム機用ソフトで成長し現在もそれを主力としているので、このカテゴリーには含めない。
旧勢力のグリーの7~9月決算は、売上高6.9%減、営業利益37.9%減、純利益73.5%減の減収減益。収益の柱の課金収入が減少し、希望退職募集に伴うリストラ費用で特別損失を計上し純利益は大幅減。通期見通しは公表していない。4~6月期と比べると売上高減、営業利益増で、会社側は増益をまるで鬼の首でも取ったかのように自画自賛するが、広告宣伝費や業務委託費を削減した悪影響は後で効いてくるはず。増収に結びつくヒット作にも恵まれていない。
「モバゲー」もまたヒット作が出ず、DeNAの第2四半期決算は、売上収益2.0%増、営業利益17.4%減、純利益14.4%減の増収減益。通期見通しは公表していない。第3四半期の見通しは売上収益4.7%減、営業利益25.3%減、純利益22.0%減と減収減益で、第2四半期よりさらに悪化すると見込んでいる。下期に集中する新作タイトルの利益寄与は1~3月期になるとアナウンスしており、守安功社長は新作をヒットさせて第3四半期を底に増益トレンドに戻したいと言っているが、それまでは国内の課金収入が伸びない中で開発費負担が重くのしかかり、収益が圧迫されることになる。
一方、新勢力の代表格のガンホーの第3四半期決算は、売上高9.9倍、営業利益28.4倍、純利益15.1倍という空前の業績急拡大。通期見通しは開示しない方針。もっとも、4~6月期と比べて7~9月期は12%の営業減益になり「パズドラ神話にも陰りか」と発表後の株価が続落する一幕もあった。その要因は7月に発生したスマホ向けゲームの不具合による売上減だが、森下一喜社長はパズドラについて国内では「成熟期に入った」という認識を示している。10月に親会社ソフトバンクと共同での買収を発表したフィンランドのスーパーセル社との連携を通じて、パズドラの海外での売上増に期待をかけている。
「魔法使いと黒猫のウィズ」のダウンロード数が10月末で累計1100万と破竹の勢いで伸びるコロプラの9月期本決算は、売上高3.3倍、営業利益3.8倍、純利益4.0倍で、ガンホーには及ばないものの業績は急拡大。今期の通期見通しは売上高100.4%増、営業利益108.9%増、当期純利益112.2%増で、いずれも前期の2倍以上を見込んでいる。
■旧勢力と新勢力の決算内容で大きく違うのは「人件費」
旧勢力のグリーは減収減益で、DeNAも次の第3四半期は減収減益見通し。一方の新勢力はガンホーがケタ外れの業績急拡大で、コロプラも3倍台、4倍台の増収増益。その差はあまりにも歴然としているが、決算の上ではどこがどう違うのだろうか。
決算発表資料によれば、旧勢力のグリーの7~9月期の原価分と販売管理費分を合わせた人件費は62億円で、売上高比で17.5%を占める。金額は前四半期から減っていない。一方、新勢力のコロプラの同じ7~9月期の人件費・賞与は5.56億円で、売上高比は8.5%でグリーのほぼ半分にとどまっている。
グリーの人件費について記憶に新しいのは、昨年1月に日経新聞でも報じられた「2013年の新入社員から年俸上限1500万円」という話題だろう。募集要項の給与欄に「大卒初任給・年収420~1500万円」と書いてあったという。1500万円は特殊なケースだとしても、下限の420万円でさえ、大卒初任給の平均約20万円に賞与が3ヵ月出ても300万円程度なのと比べると1.4倍も多い。グリーの平均年収については31.5歳で751万円というデータが公表されているから、この初任給はウソではないだろう。一方、コロプラの大卒初任給はデザイナー22万円、エンジニア28万円で、大学院卒エンジニアの最高年俸でも約420万円でグリーの大卒最低年俸とちょうど並ぶ水準。人件費の売上高比に2倍の差がついているのも納得できる。
企業経営では「人材は最重要」「人材に投資せよ」と口を酸っぱくして言われるが、はっきり言ってグリーは、才能の囲い込みで他社、おそらくかつて〃仮想敵国〃だったDeNAよりも優位に立とうと、人材に投資しすぎた。人件費にカネをかけすぎた。その結果が希望退職募集で205人が応募して全社員の11.6%が去っていくわけだから、まさに「過ぎたるは及ばざるがごとし」である。
■新勢力の「一本足経営」には怖さもつきまとう
だが、今は飛ぶ鳥を落とす勢いの新勢力にもアキレス腱がないわけではない。それは「『パズドラ』の次は何がある?」「『魔法使いと黒猫のウィズ』の売上がピークを越えたら、何で稼ぐのか?」といった「一本足経営」への不安である。
かつてアサヒビールは「スーパードライ」で売上の7~8割を稼いでいた時代があり、まさに一本足経営だった。しかし「スーパードライ」は大ヒットしただけでなく、人気が20年以上続いたロングセラー商品でもあった。しかし「パズドラ」はといえばロングセラーどころか、早くも「人気に陰り」とささやかれ、気の早い業界スズメは「ガンホーはオワコン」などとあちこちで吹聴している始末。ゲームユーザーは新しいものに飛びつくのも早いが、あきるのもまた早い。「魔法使いと黒猫のウィズ」の人気もこの先、いつまでもつかわからない。
いわゆる「一発屋」でも「ゼロ発屋」よりはるかにマシ。しかし、次のヒット作が出なければ企業として存続できるかどうかも危うくなるのが、戦国ゲーム業界だ。投資資金も人材もガラガラポンするその新陳代謝の激しさもまた、この業界の活力の源泉になっているわけだが。(編集担当:寺尾淳)