人はなぜ、時に攻撃的になるのだろうか。動物が野生の中で生存し続けるためには、身を守ったり食料を得るために攻撃性を発揮しなければならないが、人間社会では必要以上に攻撃性が高ければ、無用なトラブルを引き起こすことが多い。
トラブルのもとともなりうる攻撃性について、早稲田大学教育・総合科学学術院/先端生命医科学センターの筒井和義教授と産賀崇由研究助手らのグループは、攻撃性の高い鳥類として知られるウズラを使って興味深い実験を行っている。
古くから雄の攻撃性は精巣でつくられる男性モルモンに依存すると考えられていた。しかし、これまでの研究成果によると、精巣から分泌された男性ホルモンは、脳に存在する女性ホルモンの合成酵素によって女性ホルモンに変換された上で、雄の攻撃性を制御することが示されている。
2000年に筒井教授らは新規脳ホルモンである生殖抑制ホルモンを発見し、その後、同ホルモンが動物の攻撃性を抑制することも明らかになった。そして今回、新たに行われた実験は、生殖抑制ホルモンによってどのように攻撃性が抑制されるのかを明らかにするためのもので、ウズラをモデルにして行われた。
生殖抑制ホルモンを雄ウズラの脳に投与したところ、脳に存在する女性ホルモン合成酵素の活性が高まり、脳内の女性ホルモン量が著しく増加することがわかった。次に、高濃度の女性ホルモンを雄ウズラの脳に投与したところ、雄ウズラの攻撃性が著しく低下することも分かった。さらに、女性ホルモンを合成するニューロンには生殖抑制ホルモンの受容体が存在していることも明らかになった。
一連の研究により、生殖抑制ホルモンは、女性ホルモンを合成するニューロンに作用して女性ホルモンの合成を高め、雄ウズラの攻撃性を低下させることがわかった。つまり、生殖抑制ホルモンの働きによって女性ホルモン合成酵素の活性が高まると、脳内の女性ホルモン量が過剰になって雄の攻撃性が抑制されると考えられる。
研究成果によって攻撃性を抑制する仕組みが明らかになった。人間社会の秩序を混乱させる主要な原因の一つが攻撃性の異常な高まりだ。研究成果は攻撃性の高いウズラを解析モデルにして得られているが、今後の研究で人間にも同じ仕組みが存在することを明らかにすれば、人間の攻撃性の高まりを安定させる方法の開発が可能となり、社会における平和や秩序に貢献することが期待できる。(編集担当:横井楓)