2011年3月11日。日本全土が悲しみに包まれたあの最悪の金曜日から、もう3年が経とうとしている。依然として福島原発の後処理や被災地の復興は順調に進んでいるとは言い難い状況ではあるものの、災害は日本人の様々な意識があの日を境に少しずつ変わってきたのではないだろうか。
とくに災害対策や危機管理においては飛躍的に意識が高まった。事実、株式会社富士経済が危機管理関連ビジネスの国内市場を調査してまとめた「ポスト3.11危機管理関連ビジネスの全貌 2012」によると、危機管理関連ビジネスの国内市場は、震災の発生した2011年、前年比10.1パーセント増となる1兆4655億円となっており、その後も伸びていることから、2016年には11年比で31.0パーセント増となる1兆9200億円が予測されている。中でも、携帯電話やパソコンを使って緊急情報を配信し、安否確認と初動支援を行う「緊急通報・安否確認サービス」は11年比で46.2パーセント増の19億円、災害発生時に情報を収集し、携帯電話やスマホなどを介してその情報を住民に向けて発信する「防災行政無線」も、同じく11年比60.0パーセント増の400億円が16年の予測と見込まれている。
そんな中、国内最大の通信業者であるNTT<9432>が、大規模災害時に通信の即時回復を可能にするICTカーを開発したと、1月28日に発表した。これは、東北大学、富士通<6702>、NTTコミュニケーションズと共同で推進している研究開発プロジェクトの一環で開発したもの。通話や情報処理などのICT環境(Information and Communication Technology)の提供に必要な装置をコンパクトに搭載したワゴンカーで、屋根上には無線LANやFWA(固定無線アクセスシステム)などのアンテナを備えており、大規模災害が起こった際には、このICTカーを被災地に搬送・設置することで、半径500mエリア内のスポットを短時間にWi-Fiエリア化することができる。また、大容量のバッテリーや発電装置も搭載しているので、5日程度は自力で運用できるという。
利用できる端末は、無線LAN対応のスマートフォンに限られるが、これはシステムの性質上、仕方がないだろう。ともあれ、このワゴンが被災地で活動を始めると即時に半径500mのエリアで無線LANに接続できるようになる。利用者は専用アプリをダウンロードすると、インターネットの利用はもちろん、いつもの電話番号のままでWi-Fiエリア内にいる相手との通話や域外への外線発信などもできる。
被災した場合、何よりもまず、安否の確認や連絡のやり取りが必要になる。東日本大震災では発生の直後、携帯電話の通話やメールがつながりにくかったが、ツイッターなどを利用することで状況の確認や連絡のやり取りが比較的安定して行えたといわれている。ただし、それもインターネットに接続できる環境があるという条件付だ。有事の際には、このICTカーがきっと活躍することだろう。とはいえ、この車が必要になるときは、また何か大きな災害が起こった時ということになる。このICTカーの出番が永遠にこないことを祈りたい。(編集担当:藤原伊織)