iPS細胞を用いたアルツハイマー型認知症治療薬の研究がスタート

2014年04月12日 19:03

 iPS細胞を用いたアルツハイマーの治療薬の研究がスタートした。いよいよiPS細胞の実用化が目前となった。厚生労働省によると、アルツハイマー病とは脳の細胞がゆっくりと死んでいくため発症する病気であるため、細胞を再生するiPS細胞活用はもってこいの研究だ。

 富士フイルム株式会社と京都大学iPS細胞研究所(CiRA)は、患者由来のiPS細胞を用いてアルツハイマー型認知症治療薬「T-817MA」に関する共同研究を開始した。

 富士フイルムは、グループ会社の富山化学工業株式会社にて、アルツハイマー型認知症の治療薬の研究を進め、強力な神経細胞保護効果と神経突起伸展促進効果を有し病態動物モデルでも高い治療効果を示す「T-817MA」を見出した。現在、米国で「T-817MA」の第II相臨床試験を進めており、バイオマーカーの解明に取り組んでいる。

 一方、CiRAの研究チームは、患者由来のiPS細胞から分化させた神経細胞でアルツハイマー型認知症における神経細胞死や、40~43個のアミノ酸が連なってできたタンパク質の断片であるアミロイドベータの分泌などを調査した結果、アルツハイマー型認知症患者の原因遺伝子によってそれらに差があることを解明した。

 今回、富士フイルムとCiRAは、CiRAの解明結果を活用して、アルツハイマー型認知症患者由来のiPS細胞から分化誘導させた神経細胞を用いた共同研究を行う。そして、「T-817MA」の有効性を予測するバイオマーカーの特定やアルツハイマー型認知症患者の治療に対する新たな臨床試験の方法の確立を目指す。

 また、細胞生育・増殖のための足場である、富士フイルムの「リコンビナントペプチド(RCP)」を用いて、iPS細胞の樹立や神経細胞への分化誘導の効率化に関する検討も実施する。従来iPS細胞を使った創薬研究では、培養皿の中で、ある疾患の患者由来iPS細胞を、疾患の標的になる細胞に分化・誘導していた。そして、その細胞を使用して疾患の治療薬となりうる有効成分を見つけ出す研究が行なわれてきた。しかし、これはすべて培養皿の中でのデータ取得に留まっていた。

 それに対し、今回の共同研究は、患者由来iPS細胞を用いて得た培養皿の中のデータを、実際のヒトの臨床試験でのデータに付き合わせて解析することが特長だ。患者由来iPS細胞を用いて培養皿の中と実際の臨床試験を直接結びつけることは、これまでになかった新たな研究方法であるとしている。研究の成果に期待したい。(編集担当:慶尾六郎)