チャイルドシートの重要性は広く理解され装着が普及し、その装着方法も国際的にISOFIXで決められている。とは言え日本では、いまだに小さな子供を助手席で抱いた母親を目にする。また、ミニバンなどでは走行中でも、クルマのなかを移動して遊んでいる子供の姿があったり、ひどい例では、ミニバンのサンルーフから顔を出している子供さえ見かける。物心つかない小さな頃から「チャイルドシートに固定する」訓練をしなかった親の問題と思える。
スウェーデンのボルボは、クルマに乗る小さく弱い搭乗者である子供を守る教育を含めた技術開発に取り組み始めてから、2014年でちょうど50年目を迎えた。
子供を自動車事故から守るという世界に先駆けた取り組みは、1964年に世界初の後ろ向きチャイルドシートのプロトタイプをボルボが開発したことから始まった。これは宇宙飛行士が後ろ向きで着陸することにヒントを得て、医者であり、後にチャルマーズ工科大学交通安全学教授となったベルティル・アルドマン氏がボルボと協力して、初めて後ろ向きチャイルドシートのプロトタイプを開発。試験にはボルボPV544(1946年から1965年まで生産したセダン)が使われた。
以降、ボルボは大人と子供では身体の構造が違うという基本的な考え方をベースに、子供の安全を守るためのさまざまな安全装備やアクセサリーを開発してきた。1990年には後席センターに子供用シートをインテグレートしたステーションワゴンを発表していた。「子供にはクルマに乗って移動する時に、特別な乗員保護装置が必要だ」というのがボルボの哲学なのだ。
「子供を守るための原則は、50年前も現在も変わらない。子供の首はまだ十分に発達しておらず、クルマが衝突した場合、前向きに座っていると首に大きな力がかかる。3~4歳までの乳幼児がクルマで移動する際は後ろ向きに座らせる必要がある。乳幼児にとってはこれが一番安全なスタイルなのだ。もう少し大きくなると、骨盤の位置に合わせてシートベルトを正しく着用するために座面の高さを調節するチャイルド・クッションやシートが必須だ」というのがボルボの主張だ。
そして、「ボルボ、チャイルドシート取り組み50周年」の今年、画期的なインフレータブル(空気注入式)チャイルドシート・コンセプトを考案した。このシートは、後ろ向きに装着するタイプで、使わない時には小さなバッグに収まり、軽量で持ち運ぶことができる乳幼児用のチャイルドシートだ。
考案者は米ロサンゼルスのボルボ・モニタリング・アンド・コンセプト・センター、デザインマネージャーのローレンス・アベレ氏。
このシートには、静かで効率的な新しいポンプシステムが組み込まれていて、40秒足らずでシートが膨らむ。同じようにポンプで折り畳むことができる。総重量は5kg以下。普通のチャイルドシート比で半分以下の重量だ。素材は軍隊で開発された「ドロップステッチ」という素材で強い内圧に耐えるハイテク・ファブリックだ。軍用ゴムボートなどに使うという。
この幼児用シートなら、小旅行用のバッグに小物と一緒にまとめて入れることができる大きさで、子供を連れた旅行などでレンタカーやタクシー、観光バスなどで利用することを考慮したチャイルドシートである。デザイン性にも優れ、軽量で、旅行でも使えるチャイルドシート。これならば航空機でも使えそうな予感が……。是非とも商品化してほしいものだ。(編集担当:吉田恒)