自動車「自動運転」への誤解? あくまで「安全運行支援」目的のアクティブセーフティ技術

2014年04月01日 15:16

UTMS

Hondaが4月から宇都宮市でスタートした「運転支援システム」の概念図。現在設置されている光ビーコンと相互通信・協調して情報をプログラムする。

 今後の自動車社会を見据えるうえで鍵となる要素は大きく2つなのかもしれない。ひとつ目は言わずもがなの「環境性能」の向上である。好燃費、排出ガスのクリーン化およびCO2排出量の低減、そしてリサイクルシステムの構築、生産設備のクリーン化も含まれる。

 もう一点は昨今話題になっている「自動運転」だ。ただし、「自動運転」という単語が独り歩きしている傾向もあり、「運転者がブレーキを踏まなくても、クルマが勝手にブレーキを掛けて止まってくれる」システムという、勘違いに等しい認識をしているユーザーも多いようだ。極端な例では、「究極の自動運転は、ドライバーが朝通勤時に運転席で新聞を読みながらコーヒーを飲んでいる間に会社に到着させる」メカニズムだとする表現もある。

 が、しかし、現在考えられている自動運転の基本的な概念は、「ドライバーの安全運行の支援システム」であり、1980年代から本格化したアクティブセーフティという考え方が進化してきた結果なのである。つまり、タイヤをロックさせずに停車させるABSから始まり、その後のブレーキアシストやEPS(Electric Stability Program/横滑り防止装置)などの延長線上にあるメカニズムだ。

 運転支援システムとして最近のヒット作である富士重の「Eye Sight」のように、カメラが前後を監視して衝突を避け、事故を軽減する。あるいは前方走行車に追随して車間距離と一定に保つ。加えて車線を認識して維持する。つまり、ABSやEPSと同じくドライバーの技量を補完しアシストする安全装置なのだ。

 最新のメルセデスベンツSクラスなどは、カメラやレーダーで車両前方の路面の“うねりや凸凹”などを確認して、路面に合わせサスペンションを制御。車両の安定と快適な乗り心地を提供するところまで進化している。こうした支援システムは自車に組み込まれたメカニズムで完結している自立型構造としているが特徴だ。

 しかし、今後発表されるであろう運転支援システムは外部との通信などを組み合わせた、いわゆる協調型支援システムだ。

 今年1月に米「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」でグーグルの発表がその辺りを見据えた発表を行なっている。GMなど大手4社と「アンドロイドOS」をベースにした自動車向け情報システムの共同開発に乗り出す。グーグルのネット地図などの最先端サービスを音声や視線の動きを通じて車内で自在に扱えるほか、最新のヒット曲や動画なども楽しめるようになる。加えて、自動車メーカーなどが開発にしのぎを削る自動運転技術にまで入り込もうと目論んでいる。

 スマートフォンとクルマを連動させるシステムには、米アップルコンピュータも参入を表明。アップルはホンダや日産自動車などと提携を発表した。

 スウェーデンのボルボ社は、自動運転の前提としてインフラ整備にまで踏み込んだ実験を開始した。これは、自車位置を正確に確認するため、道路にマグネットを埋設したインフラ整備と研究をスウェーデン運輸管理局と提携してスタートさせた。GPS やカメラ・レーダーなどで確立されている測位技術は特定の条件において制限を受けるのは確認済み。ボルボでは本社のあるイェーテボリ市の公道で100台規模の走行実験を行なう。「道路に埋め込まれたマグネットは、物理的な障害物や吹雪など悪天候の影響を受けない」というのがボルボの主張だ。

 一方、日本国内でもHondaが、ITSなどと協調した新交通管理システム(UTMS/Universal Traffic Management System)の一環として、この4月から栃木・宇都宮市で信号情報を活用した運転支援システムの公道実証実験を開始する。このシステムでは現存する道路脇の高度化光ビーコンから得られる信号と自車位置と速度を計算して円滑な運転を支援するという。実験は宇都宮市内の5路線で実施。Honda社員の通勤車両など100台規模で行なう。

 今後の運転支援技術は、こうした協調型支援が主流となるだろうが、「自動運転」という言葉だけが先行することには問題がありそうだ。あくまで「安全運行支援技術」であると認識したい。(編集担当:吉田恒)