低価格が売り物の業種、売上アップは店の「おしゃれ度」

2012年08月06日 11:00

 低価格の店はふつう「おしゃれ」と縁遠いが

 安さが売り物の小売店や飲食店と言えば、どんな業種、業態が思い浮かぶだろうか?「100円ショップ」「牛丼店」「回転寿司」「居酒屋チェーン」……「家電量販店」「ディスカウントショップ」「ドラッグストア」「ホームセンター」を挙げる人もいるだろう。

 そんな店は、活気はあってもお世辞にも「おしゃれ」とは言いがたい。チープな内装。曇や雨の日は屋外よりも明るい直接照明。何の飾り気もない什器や業務用家具。商品を棚に満員電車のように詰め込み、時には段ボールに入れたまま売っている陳列。「安さ爆発!」「超安!」などB級映画の予告編のようなケバケバしい看板や値札。店員お揃いのハッピやジャンパーやユニフォームも、おしゃれとは距離を置いている。

 コンクリ打ちっぱなし、機械ムキ出し、運搬用ワゴンに商品載せっぱなしで、倉庫の中で買物している気分になれる店、来店客は男性ばかりで女性は一人で入りづらい店、女性はいてもその年齢層が高く、若い女性は遠慮しそうな店もある。そんな低価格業態の小売店や飲食店が、「おしゃれ」に変身して若い女性にも客層をひろげようと試みるのは、無謀な挑戦だろうか。実は、それで結果を出している店がある。

 「100円ショップらしくない」のが売り物?

 100円ショップ業界には一時ほどの勢いがないが、その中で女性のハートをつかんで2ケタ成長している企業がある。岐阜県大垣市に本社があるセリアである。セリアの店舗に行ってみると、大創産業の「ダイソー」などとはひと味違うことがわかる。内装は落ち着いた色調で、レイアウトも陳列も100円ショップ特有のザワザワ感や切迫感がなく、クリーン。「さりげなくおしゃれ」でファッションビルのテナントに入っても違和感がない。特に女性はゆったりした気分で買い物ができるだろう。

 商品も厳選していて、品質に多少難があっても「とりあえず入れておこう」というマーチャンダイジングをしていない。100円ショップは「どうせ100円だから」と、店づくりも商品も接客もお客さんの意識も「荒れる」ことが少なくないが、それを感じさせない。そんな「100円ショップらしくない」ところが、女性に支持されている理由ではないか。

 セリアの6月30日現在の店舗数は1076店舗で、同じく女性に人気があるキャンドゥの「キャン★ドゥ」822店舗(5月31日現在)を抜いて業界第2位。2012年3月期の売上高は936億円で、前期比12.3%増の2ケタ成長を遂げている。そんなセリアの店も、2007年までは他の100円ショップとそれほど変わらなかったという。「おしゃれ」に変身したことも、業界第2位に躍進した原動力だった。

 居酒屋が若い女性を狙うと男性も店に来る?

 居酒屋チェーンは、長期低落傾向にある。「居酒屋・ビヤホール」の市場規模は、1992年の1兆4629億円をピークに下落が続き、2011年にはとうとう1兆円の大台を割ってしまった(外食産業総合調査研究センター「外食産業市場規模推計」)。大手の2011年度の売上高は首位のモンテローザ(非上場)以外は軒並み前年比マイナスで、あのワタミも外食事業だけ取り出せば減収だ。その居酒屋チェーンで「気になる店はどこですか?」と聞くと、業界の人、業界にくわしい人の間でその名がよく挙がる店がある。それは「土間土間」だ。

 土間土間は、焼肉店「牛角」で知られるレインズインターナショナル(非上場)が運営する居酒屋チェーンで、2001年に初出店した新興勢力。FC方式を併用して全国に店舗網をひろげ、今年5月時点で236店舗ある。1年に20店舗以上というペースで店が増えている。売上高は公表されていないが、店舗数の増加ペースから推測すると、順調に成長していると言えるだろう。

 他社が気にするのは、FC方式や出店ペースもさることながら、若い女性にターゲットを絞ったそのコンセプトの斬新さである。店内の和洋折衷の内装、間接照明、モダンなインテリア、ファッショナブルな店員の服装などは、騒々しい中で「チューハイをイッキ飲み」するような居酒屋チェーンの男性的なイメージとは、まるでかけ離れている。土間土間は、おしゃれな店構えと、リーズナブルな居酒屋レベルの価格設定で、「女子会」をやりたい女子のハートをわしづかみ。若い女性に人気の店になっている。

 若い女性が来る店には、同伴ではなくても男性が勝手にやってくる。店の雰囲気が違うので、他の居酒屋チェーンのようなバカ騒ぎはしない。その点が「客筋がいい」と女性のさらなる好感を呼んで、男女とも集客力が高まるという好循環を狙っている。低価格の居酒屋チェーンも、女性を狙って店をおしゃれにしたら、こうなる。

 どんな店でもユニクロのように「イメチェン大成功」するわけではない

 衣料小売業には、もともと低価格業態で若い女性はあまり来ないような店だったのが、「おしゃれ」に変身して大発展を遂げた先輩がいる。ご存知、ファーストリテイリングの「ユニクロ」だ。

 90年代、メンズ中心のカジュアル衣料店で、「ナイキ」などスポーツブランドのアウトレットショップとして安さを売り物にしていた時代は、来店客の大部分が男性だった。ウエスタンスタイルの内装なども、女性より男性を意識していた。それが「GAP」を手本とする現在の業態に転換し、1998年11月に東京・原宿に進出。店舗のコンセプトも含めた新しいイメージ戦略を展開することで女性にも好まれるような「おしゃれな店」に変身した。「フリース」の大ブームともあいまって若い女性の来店が増え、現在の隆盛につながっている。

 だが、どんな店もユニクロのように「イメチェン大成功」するわけではない。低価格の回転寿司は、居酒屋チェーンとは対照的に外食産業では数少ない成長分野である。2007年から2011年までの4年間で外食産業全体の市場規模は5.6%減少したが、回転寿司の市場規模は逆に16.5%増加している(富士総研「外食産業マーケティング便覧」)。とはいえ、いまだに牛丼店と同じように「女性が一人で入るには抵抗がある店」と認識されている。

 そのイメージを変えるべく立ち上がったのが、意外や意外、創作フランス料理の第一人者で「オテル・ド・ミクニ」のオーナーシェフ、三國清三氏だった。2001年に東京駅丸の内南口の「東京食堂Central Mikuni’s」に併設して、自らプロデュースした「回転寿司三九二(みくに)」をオープンさせ、大阪にも出店した。翌2002年には同じ東京駅の八重洲地下街に、回転寿司チェーンの元気寿司が「東京元気寿司DINING BAR」をオープンさせている。どちらの店も、内装に凝ってBGMにクラシックやジャズを流す、産地を表示する、ワインを出すなど回転寿司らしからぬ高級感を演出した「おしゃれな店」だった。

 話題になり、女性客の人気も上々だったというが、三九二は2006年、DINNING BARは2011年に閉店し、長続きしなかった。そのため業界では、「女性客をターゲットにした回転寿司店は成功しない」というジンクスが、いまだに生きている。回転寿司は、店をいくらおしゃれにしても「お寿司が機械の上を回る」のは同じ。それに対する抵抗感はぬぐえなかったのだろうか。

 100円ショップも、店をおしゃれにしようと「商品が100円」なのは同じ。居酒屋も、店をおしゃれにしようとそこが「居酒屋」であることに変わりない。どちらも結果を出してはいるが、それがどこまで持続できるか、今後に注目したい。