全死因の6割を占める生活習慣病の克服は国家の急務といえる。一方で、高齢者を始めとして単一の疾病で入院する患者は少なく、複数の疾病を併発している場合がほとんどだ。こうした現状を受けて、このほど日本学術会議では「生活習慣病研究のあり方」に関する報告書をまとめた。報告書では個別臓器に特化した従来のやり方の限界を指摘し、臓器を横断する「分野融合的な研究の確立」や生涯に渡るフォローアップ「ライフコース疫学」、が必須としている。
がん、循環器疾患、糖尿病及び慢性閉塞性肺疾患などの生活習慣病は、近年、海外では非感染性疾患 (NCD)と呼ばれている。NCD による全世界の死亡数は、2008 年の時点で全死因の約63%を占め、急速に増大し続けており、先進国のみならず発展途上国でも重要な社会的課題とされている。
報告書では我が国の現状について「個別臓器や代謝系のみに特化した従来の生活習慣病研究を継続していては、疾病の本質を理解し有効な対策を講じることは困難」と指摘。今後の生活習慣病研究のあり方を、「ライフステージのすべての段階において臓器や生体システムを横断する分野融合的な研究を推進し、発症・合併症予防法の開発へと研究を発展させることが必要」とした。
生活習慣病の発症には社会環境が大きく関わることから、医療保健分野だけでなく、地域の環境要因や経済的要因をも含めた幅広い視点から対策を講ずる必要があるが、既存の調査は疾患単位で解析するものが中心であり、一連の疾患段階に関して大規模な集団を長期間追跡した調査は少ない。
そこで「妊娠・出生からの長期継続調査体制と患者データベースの構築」が必要とし、「科学的根拠によって裏打ちされた生涯にわたるフォローアップ、すなわち『ライフコース疫学』の進展が、効率的な先制医療の開発を可能にする」とした。
このほか、「生体の制御システムを理解した上で、その破綻としての生活習慣病を臓器横断的に捉え、その制御技術を開発する」ことが必要とし、そのために「臨床医学とライフサイエンス、ヒトゲノム科学、情報処理科学、医用工学など他の学術領域との連携が不可欠」ともした。
具体的には、臨床医学研究の体制整備として、小規模研究の乱立を避け、▽組織バンクへの生体試料の集積と集中的な解析▽電子カルテシステムからの診療情報の抽出とファイル化▽安全な情報管理システムによる患者データベースの確立と運用――など個別の研究機関ではなく、オールジャパンでデータを共有できるよう取り組むべきとした。
また、臨床医学研究の最終目標は医療応用であるとの原点に立ち、開発当初から知財管理や産学連携を意識した研究を進めることや、学問分野横断的に研究を遂行できる人材の育成にも触れている。(編集担当:横井楓)