2014年6月時点において、日本国内における稼働中の原子力発電所数はゼロ。13年9月に福井県の大飯原発が停止して以来、一基も稼動していない。そんな中、年内の再稼動に向け審査が佳境を迎えている原発がある。鹿児島県川内原発だ。
川内原発が再稼動へ向けて大きく動き出すきっかけとなったのが12年に行われた鹿児島県知事選挙である。選挙戦は現職で再稼動容認派の伊藤祐一郎氏と、川内原発の即時廃炉を訴える向原祥隆氏の一騎打ちとなり、その結果得票率66.3%で伊藤氏が再選を果たした。
川内原発は、昨年7月に施行された原発規制基準に基づく審査を、他の原発に先駆けて合格する見通しとなっている。しかし、川内原発の付近には、阿蘇カルデラや姶良カルデラなど十数万年以内に巨大噴火を起こしたとみられる火山が複数確認されているのだ。しかもこの規制基準では火山対策について、実はほとんど白紙状態なのである。規制基準をクリアしており、再稼動に問題無しとの見方には大きな疑問符が付く。
噴火に伴う火砕流が万が一にも原子炉へ到達した場合、炉は直接大きなダメージを負うことになる。そうなれば電源喪失や冷却不能以前の問題であり、核燃料を退避させる事でしか事故を防ぐ方法は無くなってしまう。核燃料の移動は数ヶ月程度では終わらない。仮に3ヵ月後に噴火の可能性ありと予測できたとしても、原発事故を防げるかどうかは未知数なのだ。必要とされる噴火予測能力は相当に高いものであることは明らかだ。
九州電力<9508>と原子力規制委員会によると、川内原発の半径160km圏内には複数のカルデラが存在する。しかし、それらが大規模な噴火を起こす可能性は十分に低いうえ、GPSなどによる監視を行えば危険な前兆を捉えることは可能だとしている。だがその一方で、火山や地震の専門家の間ではカルデラ噴火の予測を否定する声も多い。東大地震研究所の中田教授によると、大きな変動の後に噴火が起きるのか、それとも溜まったマグマが小さなきっかけで噴出するのか、その辺りのメカニズムすら実はまだ解明されていないという。九電や原子力規制委の説明通り、本当に川内原発に関するリスクは払拭されたと考えて良いのだろうか。
原発の運用に当たって、安全神話の存在を許してはならない。我々は3年前にそのことを、身をもって思い知らされた。このまま審査が進めば、遅くとも年内には川内原発の再稼動は開始されるだろう。地元自治体には、経済効果に対する期待と安全性への不安という二つの相反する感情が複雑に渦巻いている。(編集担当:久保田雄城)