トヨタの超小型EV(電気自動車)によるカーシェアリングの実証実験をフランスのグルノーブル市で10月からスタートする。
近年の自動車を取り巻く社会のトレンドと消費者行動から、持続可能な超小型モビリティを運用する動きは、後戻りできない。これは世界規模で自明なことである。そして、その動きは急だ。
公共交通機関が日本ほど普及していないEU圏における平均的な通勤時間は概ね40~50分だという。公共交通機関を利用する通勤者は緩増しているが、その大多数が最終目的地まで15分以上歩かなければならないという現実もある。
今回、グルノーブル市で展開するトヨタの超小型コミューターと連携した、このITシステムの実証実験は、都市内での移動をよりフレキシブルにし、将来の「スマートシティ」の基礎を築くものとなる可能性を秘めている。
1968年に冬季オリンピックが開催され、画期的な記録映画『白い恋人たち(クロード・ルルーシュ、フランソワ・レシャンバック監督/音楽フランシス・レイ)で有名なグルノーブル市は、そもそも革新的な都市で、市内北西部には「明日の都市を想像する場所」というスローガンを掲げたCEA(仏・原子力庁)やSTマイクロエレクトロニクス社などの権威ある研究機関が集積する。また同市には、6万人以上の大学生が、フランス有数の幾つもの近代的キャンパスに通学する学園都市でもある。
1987年に、同市は(ナント市に続き)フランスで2番目にトラム(路面電車)を再導入した都市だ。2013年には、延べ7800万人がその公共交通機関を利用している。また、新しいトラムも次々に開通している。環境に優しい移動手段として自転車も重要な役割を果たしており、5000台のレンタルサイクルがあり、計320km以上にのぼる自転車専用道路も整備されている。
そこに本年10月より、70台のトヨタ製超小型EV(TOYOTA i-ROAD/COMS)が導入され、フランス電力公社(EDF)による約30カ所の充電ステーションが建設される。このセルフサービスのカーシェアリング実証実験は、グルノーブル市やグルノーブル都市圏共同体、シテ・リブ社、EDFならびにトヨタが参画して3年間実施する予定だ。
充電ステーションを提供するEDFは車両の電動化(電池技術ならびに充電インフラ)について、半世紀以上の経験を有し、公共部門・企業部門・一般ユーザーに持続可能な交通手段を提供する役目を担う。今回のプロジェクトでは、EDFの完全子会社であるソデトレル社が、EVやPHVの充電インフラの管理・運営を担当するという。貸し出し方式は通常のレンタルのほか、ワンウェイの乗り捨ても可能となる。会員申し込みはすでにスタートしている。
トヨタは、本プロジェクトに計70台の超小型EVを提供する。昨年の東京モーターショーで紹介したCOMS(トヨタ車体製/1人乗り・四輪車・トランク有)とi-ROAD(2人乗り・三輪車)である。なかでもi-ROADは、新しくとても楽しいドライビングを提供するコミューターで、二輪車の取り回しの良さと、四輪車の快適性・安定性を兼ね備えている。普通車1台分の駐車場に、4台のi-ROADを駐車させられるコンパクトな設計も自慢だ。
同時にトヨタは、車両の予約や車両の位置や空車状況を確認するITシステムも開発し、“Station Mobile”(グルノーブル都市圏共同体による、公共交通機関を含む経路検索システム)とも連携させる。
本プロジェクトは愛知県・豊田市に次ぐ2件目のHa:moプロジェクト(Harmonious Mobility Network)であり、海外では初めての実験である。Ha:moはクルマと公共交通を総合的な視点で最適に組み合わせて使うことで、人と街、さらに社会に優しい交通を実現するシステムである。(編集担当:吉田恒)