“賃上げ”が大きなテーマになった今回の春闘だったが、大手だけでなく中小企業も6割が賃上げを実施したことがわかった。景気回復が業績に緩やかに反映するなか、雇用確保のためにも定期昇給やベア、賞与など、できる範囲で手段を駆使し賃上げに取り組んでいる姿勢がみえた。
株式会社東京商工リサーチは、「中小企業 賃上げアンケート 」調査を実施した。その結果、2014年春に中小企業の64.2%が賃上げを実施したことがわかった。このアンケートは2014年5月28日~6月10日の間、インターネットで実施し、有効回答を得たもので中小企業3319社に絞り集計した。中小企業の賃上げに関するアンケート調査は今回が初めてだという。
アンケート調査で、賃上げを検討した中小企業数は2563社(構成比77.2%)だった。賃上げを検討しなかった企業数は756社(同22.7%)にとどまり、有効回答を得られた企業全体の約8割が賃上げを検討していたという。一方、賃上げを実施した企業数は2132社(同64.2%)で、6割以上が賃上げを実施し、中小企業に対しても内外からの賃上げ圧力の強さがうかがえる結果となった。
賃上げを実施した中小企業(2132社)では、「定昇&ベースアップ」が430社(構成比20.1%)で最多だった。次いで、「定昇のみ」419社(同19.6%)、「定昇&賞与・一時金」413社(同19.3%)の順。「定昇&ベア&賞与・一時金」の“高待遇”企業も382社(同17.9%)あった。賃上げを実施した企業のうち、1644社(同77.1%)が「定昇」を中心にした賃上げで、「賞与・一時金」のみは69社(同3.2%)にとどまった。
賃上げを見送った企業1187社の理由は、「先行きの見通し難」が643社(構成比54.1%)と半数を上回り最多だった。次いで、「その他」284社(同23.9%)、「原資が不足」260社(同21.9%)の順。 景気の先行きが不透明で賃上げに踏み切れなかった企業が、賃上げを見送った企業全体の5割以上を占め、まだ企業業績に力強さが欠けることがうかがえる。この他、「赤字」(三重・電気機器小売、山形・貸事務所、神奈川・化学機械装置製造ほか)、「売上上昇が見込めないと難しい」(神奈川・受託ソフトウエア開発)、「業績回復が条件」(広島・産業機械卸)など、業績低迷を理由とする企業も多い。また、「政策効果が出ていない」(北海道、建具工事)、「中小企業を取り巻く環境が改善していない」(長崎・冷凍水産食品加工)など、景気の回復遅れを理由とする回答もあったという。
産業別でみると、賃上げを実施した企業の構成比は製造業が69.4%で最高だった。次いで、卸売業65.6%、農・林・漁・鉱業63.6%、建設業62.3%の順。一方、金融・保険業は39.1%、不動産業51.5%、小売業57.0%と、業種間でまだら模様となった。
地区別で、賃上げを実施した企業の構成比は中部(構成比69.7%)、近畿(同69.2%)、北陸(同67.1%)が全国平均(64.2%)を大きく上回った。自動車産業をはじめ製造業が比較的多い中部では、賃上げが中小企業にも波及している。また、飲食業などサービス業が多い近畿も、賃上げした企業が多かった。一方、全国平均を大きく下回った地区は、九州(同59.0%)、東北(同59.2%)の2地区で、賃上げを実施した企業の割合は6割を下回った。
同社では、業績回復の兆しが見えても、先行きの景気減速に備えて手元資金を取り崩す余裕はない。賃上げの定着には、こうした懸念材料を払拭することが必要で、賃上げが場当たり的な対応に終わらないためにも、今後の景気拡大の浸透が試されているとしている。(編集担当:慶尾六郎)