日本の労働組合の中央団体である連合(日本労働組合総連合会)が先日開催したメーデー中央大会に、自民党政権下では13年ぶりに首相が出席した。かねてより連合は自民党・公明党への接近を試みており、「労働者の祭典」への首相の参加はその一環であると言える。
安倍首相は「アベノミクス」と名づけた経済政策を実行し、景気回復を実現してきた。その一方で雇用・労働規制の緩和を進めようとしており、労働者の権利を弱める「労働者の敵」とも呼ばれる。「敵」である安倍首相が景気浮上の実績を訴える様子を、メーデーに参加した約4万人の組合員は冷たい目で迎えた。
景気回復の実績を訴える首相とそれを冷たい目で迎える組合員。その様子は、それぞれが考える「労働に望むもの」の乖離を象徴している。労働者に対する首相の最近の功績は、これまで連合にもなしえなかった大規模な賃上げを実現したことだ。首相はメーデーでもこの成果を訴えた。しかし、賃上げだけが働く者の望みではないことは、皆さんもすぐに思うことだろう。
労働者の望むものの一つ、それが「安定的な雇用」である。これに安倍首相はメスを入れようとしている。首相肝いりの産業競争力会議では、解雇の原則自由化が議論されている。これは、これまでもその崩壊が叫ばれてきた日本の終身雇用という慣行にとどめを刺すものだ。首相は労働者の望みの一つを決定的に奪おうとしていると言えるだろう。
首相が会場を出た後、大会では「労働者保護ルールの改悪に断固反対する特別決議」が採択された。メーデーの会場で安倍首相に非難の目を向けたのは連合の組合員だけだったかもしれないが、これから始まる労働についてのルールの大幅な見直しは働くもの一人ひとりの生活に直結するものだ。
私たちが労働に本当に望むものは何か。答えは一つではないが、国のリーダーは様々な声に耳を傾けるべきだ。メーデーでの冷たい視線の理由を、安倍首相にも理解してほしいものである(編集担当:久保田雄城)。