7月13日、ドイツ・ドレスデン近郊のザクセンリンクでMotoGP第9戦、ドイツGP決勝が行われた。
ザクセンリンクは、左コーナー10、右コーナー3というコーナーの数に差があるサーキット。その上、前半は非常にタイトなコーナーが続き、抜きどころがとにかく少ない。ドライバーのテクニックはもちろん、タイヤマネジメントやマシンバランスの影響を受けやすい難しいサーキットだ。
コースの走行距離は3,671mと、MotoGPが行われるサーキットでは最も短く、周回数は30周と最も多い。
今回のドイツGPの波乱はスタート直前に起きた。スタート直前になって曇り空からぱらぱらと雨が落ち始め、次第に強くなり始めた。この雨によってレース直前になってのウェットレース宣言がなされ、ほとんどのチームがウェットタイヤを選択した。
だが、強くなった雨は唐突に止み、コースもウェットというには乾きすぎていた。スタート前の1周でコースの状況を見た選手は、グリッドにつかずに次々とピットイン。ウェットタイヤを選択した選手はドライ用のスリックタイヤに履き替え、ピットスタートを選択することになった。
通常のスタートグリッドに並んだのは、初めからスリックタイヤを選択していた9台のみ。上位陣では3番グリッドスタートのステファン・ブラドル(LCRホンダMotoGP)だけがスリックタイヤで賭けに出ており、これが功を奏した。
このアクシデントで、ポールポジションを取ったマルク・マルケス(レプソルホンダ)を始め、上位陣は軒並みピットスタート。ピット出口の狭いスペースにマシンが犇めき、大混乱になる異例の事態となった。
決勝スタート。周囲にライバルのいないS・ブラドルは悠々とホールショットを決めて、逃げ切りを図る。ピットスタートとなった選手はピットの出口で窮屈なスタートを強いられてしまった。
このピットスタート組で、一番にコースに出たのはM・マルケスだった。バレンティーノ・ロッシ(モビスターヤマハMotoGP)も好スタートを切ったものの、レプソルホンダ勢にわずかに競り負け、その後に続いた。
ピットスタートとなったM・マルケスだが、コース合流後は目を見張る追い上げを見せ、4周目で2番手まで順位を上げて、逃げるブラドルを追い詰めた。このM・マルケスにダニ・ペドロサ(レプソルホンダ)もぴったりとつき、順位を3番手まで上げた。
後方ではモビスターヤマハMotoGPのホルヘ・ロレンソとV・ロッシも追い上げを見せ、7周目には4番手V・ロッシ、5番手J・ロレンソという体制になった。
通常ピットスタートになると、大きな不利になるはずだが、この日もM・マルケスは圧倒的な速さを見せ、危なげなくトップを奪ってしまった。こうなると今年のM・マルケスは強い。安定した走りながらじわじわと後続を引き離し、好タイムを出していた2番手のD・ペドロサとも差をつけていった。
レース序盤で5番手につけたJ・ロレンソは、9周目にV・ロッシを抜いて4番手に上がり、10周目にはS・ブラドルを抜いて3番手に浮上。V・ロッシも4番手に浮上して、1・2番手がレプソルホンダ、3・4番手がモビスターヤマハMotoGPとなった。
レース終盤には、M・マルケスが後続を突き放して、余裕を持ってゴール。波乱のスタートから、混戦が予測されたレースだが、M・マルケスは難なく制してしまった。
2位にはD・ペドロサ、3位にJ・ロレンソ、4位にV・ロッシという結果となり、M・マルケスは44年ぶりの開幕9連勝という快挙を達成した。
今シーズンは開幕からM・マルケスの強さが目立ったが、まさかシーズンの前半、9戦全勝するとは思ってもみなかった。折り返し地点となったドイツGPだが、荒れ模様のレースでも、M・マルケスのレース運びは全く危なげがなかった。雨でもトラブルでも勝ってしまうM・マルケスに、今のところ死角はみつからない。
MotoGPの次戦はアメリカ・インディアナポリスGP。6戦連続のヨーロッパラウンドを終えて、舞台をアメリカに移すが、その前に約4週間のサマーブレイクに入る。この長いブレイクで選手やチームに大きな変化がもたらされる可能性もある。
特に期待したいのが、モビスターヤマハMotoGPのJ・ロレンソ。前戦のオランダGPは、13位と全く奮わなかったが、ドイツGPでは見事に3位でゴールし、表彰台に上がった。レース中盤からの追い上げも素晴らしく、今シーズンでは最もいい走りが出来ている。
ブレイクの間にかつての気力が戻り、またマシンやコンディションの調整が上手くいけば調子が上向く可能性も高い。
開幕から9戦全勝、独走態勢を築き、余裕を持って戦えるM・マルケスを追い落とすのは実際のところかなり困難である。後半戦は年間のチャンピオン争いよりも、「M・マルケスの驀進がどこまで続くのか」そして、「誰がM・マルケスに打ち勝つのか」がポイントになる。M・マルケスが前人未到の全勝でチャンピオンを手中にする可能性もありえる。
いずれにしてもブレイク明けのインディアナポリスGPは、後半戦の行方を占うレースになることは間違いないだろう。(編集担当:熊谷けい)