NHKの籾井会長は7月、放送法の改正により、パソコンやスマートフォンを使いネット上でテレビ放送と同時に番組を観られるようにする「同時再送信」を、3年以内に実現するとコメントした。
6月に可決された改正放送法だが、その骨子となっているのはNHKテレビ放送のネット配信についての扱いだ。現行の放送法では、ネット配信可能なのは過去に放送したテレビ番組だけだったが、改正放送法ではネットとテレビ放送の同時配信が認められる形になっている。
最大の理由は、地震など災害時の情報提供だ。被災者が限られた状況でいち早く情報を得るにはネットが最も有効であり、そうした事態を考え、災害時に一時的に同時配信を解禁することを前提に改正が進められている。実際に、東日本大震災の時には広島市の中学生が「被災者の役に立てば」とネットでニュース映像を無断中継し、NKHもそれを緊急措置として追認した事例もある。改正放送法では、そうした被災者へのネット上での情報提供を、NHKなどの放送局側がいち早く実行に移せるメリットがある。
だが、前述したNHK籾井会長の発言はこう続く。「しかし、すべてタダというわけにはいかない。ネット視聴者からも受信料を徴収する必要がある。欧米などではネット同時再送信はすでに行われていて、東京五輪に向けて日本も実現を急ぐ必要がある。」
この発言に対し、視聴者層からは、「同時再送信を理由に、パソコンやスマートフォンを所持しているだけで受信料を徴収されるのは納得がいかない」、「海外の多くのネット配信はNHKのような料金徴収は行っていない」、「受信料を取るための方策にしか見えない」といった批判の声が高まっている。また、民放連も「受信料制度に支えられたNHKと民放では財力が違う。NHKの同時再送信が認められると民業圧迫の可能性もある」と、改正の内容に危惧している様子だ。
公共放送の必要性を否定するつもりはないが、受信料をはじめとした現行のシステムについては考え直す時期に来ているのではないだろうか。今やすでに、国民の多くがテレビと新聞のみから情報を得ている時代ではない。新しい文化のあり方に合わせて、システムも変えていくべきだろう。籾井会長は就任時から「放送と通信の融合」を掲げているが、それを本当に実現したいのであれば、より多様化する視聴者のニーズに合わせられる抜本的な改革こそが必要だと思うのだが。(編集担当:久保田雄城)