その昔、犬の鳴き声を翻訳する「バウリンガル」なるものが一世を風靡した。「バウリンガル」とは、犬の首輪にワイヤレスマイクを装着し、そのマイクで拾った鳴き声を本体に転送すると、それに込められた犬の感情が分析され、本体の液晶画面に表示されるという玩具だ。株式会社タカラ(現・タカラトミー)、株式会社インデックス、日本音響研究所が共同開発したもので、国内外で約30万個を売り上げるヒット商品となり、2002年度のイグノーベル賞平和賞を受賞するなど大きな話題になった。その後、姉妹品として猫用のミャウリンガルも発売され、さらに2010年にはiPhoneのアプリにもなるなど、根強い人気を誇っている。
自分が可愛がっているものの「声」を聞きたいという願望は誰にでもあるだろう。しかし、その思いはどうやら、生き物の声だけが対象とは限らないようだ。
先日、ヤマハ発動機からバウリンガルを彷彿とさせるスマートフォン向けアプリの無料配信がはじまり、話題を集めている。ヤマハ発動機といえば、社名にもあるように、オートバイやモーターボートなどのエンジンを扱う会社。そんな会社が開発したバウリンガルのような翻訳アプリはもちろん「エンジンの気持ち」を伝えてくれるアプリだ。
この世界初の「エンジン語」翻訳アプリの名称は、「Rev Translator(レヴ トランスレーター)」。名前の由来は、ヤマハ発動機がブランドスローガンに掲げている「Revs Your Heart」だという。「Rev」には、エンジンの回転速度を上げる、ふかす、テンポを速める、活性化するなどの意味がある。今回のアプリも、まさにエンジンの回転速度が上がるようなワクワク感溢れるものを目指したそうだ。
具体的な操作方法としては、アプリを起動すると、まず「クールな男性」や「キュートな女性」など、6タイプの性格を持った翻訳機の中から、自分好みのものを一つ選択する。あとは、身の回りのエンジン音にスマホをかざせば、その回転数や音色、さらには時間や天候などに応じて、エンジンの感情を翻訳してくれるのだ。しかも、無料アプリと侮るなかれ。エンジン音を翻訳して表示されるセリフはなんと1億通り以上。
しかも、「Rev Translator」が反応するエンジン音はヤマハのエンジンだけではない。はっきりと聞こえさえすれば、どんなエンジンの動作音にも反応してくれる、懐の深いアプリなのだ。
たかが玩具ではあるが、とくにバイクマニアにとっては嬉しいはずだ。もちろんバイクマニア以外の人でも、世界初のエンジンの「声」は充分楽しめるに違いない。ブレーキやハンドルにも遊びが必要なように、今の日本の企業には、技術の高さだけでなく、こういう遊び心が必要なのではないだろうか。(編集担当:藤原伊織)