米国オバマ大統領は今月1日、イスラム教スンニ派過激派組織「イスラム国」(Islamic State、IS)によって包囲されたイラク北部アミルリで行われている人道支援を軍事的に支援するため、イラクでの限定的な空爆を容認する旨を議会に対して表明した。
この過激派組織「イスラム国」を中心とする武装勢力は、今年6月以降、イラク政府軍を攻撃してイラク国内にある5つの州を支配下に置いた。その後、しばらく活動を停滞させていたが、8月初旬には北部での軍事行動を再び活発化させ、イラク北部地域を防衛するクルド人部隊を圧倒し、クルド人自治区の首府まで撤退させた。これに伴い、数十万人が避難民となり、大きな混乱が生じた。
現在も「イスラム国」はイラクの一部地域を制圧しており、その地域を奪還しようとするイラク軍との戦闘が継続している。同地域で人道支援を展開している国連の発表によると、この戦闘による死者数は、8月だけで1420人にも上っており、また、少なくとも1370人以上が負傷した。さらに、国連イラク支援ミッション(UNAMI)によると、首都バグダッド(Baghdad)西方のアンバル(Anbar)州で発生した同様の戦闘に関しては、同地域のイラク政府の影響力が弱まっているため、状況の確認すら難しいという。これらの犠牲者数は上記のデータには含まれていない。
これらの一連の軍事行動において、複数の残虐行為の発生が確認されていることを受け、国連人権理事会は同1日、特別会合を開き、「イスラム国」による残虐行為を非難する決議案を採択した。本決議においては、「イスラム国」が、無抵抗な市民の殺害や、改宗の強制など、組織的な人権侵害を行っているとして「深刻な懸念」を示し、「最も強い言葉で非難する」と表明。「イスラム国」によるテロ行為が、戦争犯罪や人道に対する罪に値する可能性があることも指摘した。
今回のオバマ大統領の決断は、現在イラクで起きている軍事的混乱を収束させるために行われた。ただし、これから行われる空爆は軍事的に制限を与えた上で実行されるため、「イスラム国」の軍事力を完全に破壊するには至らないと考えられている。特にイラク北部は、「イスラム国」による軍事活動の問題にとどまらず、クルド人問題、隣国シリアとの関係もあり、軍事的な緊張状態が続いている。今回の空爆により少しでも同地域の秩序が回復されることが望まれるが、場合によっては泥沼化するおそれもある。国際社会は、同地域で平和を求めている人々の存在を忘れることなく、引き続き本問題について注視していかなければならないだろう。(編集担当:久保田雄城)