発電から消費に至るまでの間に数多く行われている電力変換だが、その度に10~15%のエネルギー損失が起こっているという。この損失を可能な限り低減させるものとしてパワーデバイスが注目を集めており、中でも次世代パワーデバイス材料としてシリコンカーバイド(SiC)への期待が高まっている。2009年の矢野経済研究所の調査によると、2008年にSiC単結晶の世界市場は41億7000万円と推計されていたものが、2015年には355億円にまで市場が拡大すると予測されるほどである。このSiCパワーデバイスに関し、その普及をさらに加速させるような開発が発表された。
それが、京都大学・大阪大学・ローム・東京エレクトロンが共同で、高誘電率ゲート絶縁膜を採用したSiCパワーMOSFETを開発したというものである。SiC研究で世界をリードする京都大学、先端LSI向けトランジスタ開発を進める大阪大学、SiCパワー半導体市場を牽引するローム、日本トップの半導体装置メーカーである東京エレクトロン。この4者が共同で進めた同研究では、熱酸化法でSiO2絶縁膜を形成するのではなく、電気特性と耐熱性に優れたAlON(アルミニウム酸窒化物)ゲート絶縁膜をSiC基板上に堆積する方法を採用。これまで大阪大学が取り組んできたSiC-MOSFET向けAlONゲート絶縁膜に関する研究を基に、東京エレクトロンとの共同研究によってトレンチ構造に原子層レベルで均一に形成できる薄膜堆積技術を開発。さらに、AlONゲート絶縁膜として用いたトレンチ型パワーMOSFETをローム・京都大学と共同で試作し、SiO2を利用した場合と比較してリーク電流を90%低減、1.5倍の絶縁破壊耐圧の向上を実現している。本開発は、まだ研究開発段階であるものの、既存の量産機を使用するなど、実用化へのハードルはそう高くない。SiCデバイスを数多く手がけるロームは3年後の実用化を目指しているという。
その省エネ効果は、原発数基分と言われるなど、省エネルギーの切り札ともなるSiCパワーデバイス。近年は、ロームが次々に新製品を投入しているほか、三菱電機も自社製エアコンや鉄道への搭載を進めるなど、日本企業が世界をリードする開発を進めている。高い技術力を誇る日本企業。太陽光発電システムや電気自動車などへの本格的な普及も早期に実現するであろう。引き続き、市場を牽引するためにも、今回のようなオールジャパンでの取り組みに期待したい。(編集担当:井畑学)