今年春、55万8692人が大学を卒業した。7万6856人は大学院などへ進学し、進学率は卒業者の13.8%となった。前年度より1.2ポイント減少した。一方、卒業者のうち、就職したのは35万7088人で、63.9%の就職率となった。前年度に比べ2.3ポイント就職率は上がった。
ところが35万7000人の就職者のうち、正規職員でない就職者が2万1993人も含まれていることに驚く。就職者の3・9%に及んでいる。正規職員でないというカテゴリーは雇用期間が1年以上で期間の定めがあって、1週間の所定労働時間が30時間から40時間という就労者だ。
この2万人の大卒就労者の数年先はどうなのか。未来の生活設計が描けるのか。彼らの不安が伝わってきそうだ。
作家になるため、いろんな職業を体験し、その後に経験を活かした作品を書きたいというような目標を持った人なら別だが、正規社員で就職できなかったため、しばらくここでという不安な状態の就職者の方がはるかに多い。
さらに深刻なのは、一時的な仕事に就いた(1万9569人)あるいは、進学も就職もしていない(8万6566人)という卒業生が10万人を超えたことだ。この層と正規職員でない就労者をあわせた大卒者、言い換えると安定的な雇用に就いていない大卒者は卒業生全体の22.9%になっている。
若年労働者の正規職員への道筋確保こそが最も急がれる安倍内閣の課題であり、新たな家庭を築き、子どもを育てる社会の核づくりにつながる彼らにこそ、照準を合わせた雇用政策が急がれている。
一方、小泉内閣以来の新自由主義と行過ぎた規制緩和は激しさを増す企業間競争の中で、株主が企業経営者に対し短期での結果を迫る成果主義姿勢を強めるようになり、経営者は社員らに一層の成果主義を導入する結果にもなった。
株主は経営者が1人10億円の年間報酬を持っていこうと、配当が増えれば文句をいわなくなったように思う。企業としての社会的貢献度や社会への還元度、社員への利益還元の程度が適正なのか、社員を大切にする社風などは、どこかに置き忘れてしまわれたような感さえある。
その結果、社員の給料は上がりにくくなった。正社員は非正規社員よりましかと意識付けするようになってしまっていないか。正規・非正規(嘱託・パート、期間雇用など)に加え、業務委託契約で雇用契約そのものを失くしてしまう場合もある。
業務委託なら社会保険・厚生年金も会社が面倒みなくてすむ。社員と同程度の成果をあげてもらえれば万々歳で、同じ会社の中で働く就労者でも、立場がそれぞれ違い、かつ複雑になってきている。労働組合への加入者減少や組織率の低下には、多様な雇用形態や業務委託による従事者が仕事場の各セクションに複雑に入り組んでいることもある。
短期で結果が求められる成果主義が強まったことにより、経営者は社員より株主に目を向けるようになった。配当の確保、そして社内留保。自身のファイトマネーを決めるのは株主総会。大口株主である。そして、社内留保は国際競争に勝つための設備投資や事業展開のために必要だとする。社員還元は限られてくる。
共産党の穀田恵二国対委員長によると、全企業の社員の給与を2%引き上げるのに必要な金額は3兆円ですむそうだ。一方、大企業にある内部留保は260兆円にのぼっているという。
個人消費を伸ばすことがデフレ脱却の一番の道筋になるとするなら、株主は配当より企業の社会的役割に目をむけることに重点に置き、経営者は同様に企業の社会的役割とそこに働く就労者に目をむけ、行過ぎた成果主義から距離を置き、創業者が社員や顧客(消費者)、社会の喜びを自らの喜びとしたであろう立ち位置に立って、経営を考えることが必要だろう。