サントリーがフィットネスクラブ「ティップネス」を売却した理由

2014年12月30日 20:12

 サントリー・グループにとって2014年は1兆円を超す巨額買収の発表に始まり、12年にわたってローソン社長を務めた新浪剛史氏を新社長に迎えるなど、まさに激動の1年だった。今年度はビーム社買収効果で売上高が2兆4400億円に拡大し、総合酒類飲料メーカーとしてはキリンを抜いて国内首位になるとされる。目標に掲げた2020年の売上高4兆円への達成へ向けて業績が問われることになる。

 そのサントリーの社内ベンチャーとして1986年に設立し、フィットネス業界4位にまで成長したティップネス。グループのなかで手堅く利益を上げている子会社をサントリーが手放す。

 ティップネスの売却先は日本テレビホールディングス。年内をメドに譲渡を終える。売却額は350億円とも伝えられるが、両社ともに金額を開示していない。ティップネスの2013年末での会員数は25万1000名。2013年3月期業績は売上高329億円、営業利益23億円と堅調というよりも好調だ。ただ、店舗数は60店前後と伸び悩んでおり、業界全体で総合型フィットネスクラブの出店余地はなく、新業態の「FASTGYM24」ブランドの出店に注力しているという。

 国内フィットネス業界では再編が進んでいる。昨年7月に明治ホールディングスが明治スポーツプラザを業界2位のセントラルスポーツへ売却し、今年11月にはサッポロホールディングス傘下のサッポロスポーツプラザをダンロップスポーツに売却した。

 子会社売却の理由について、サントリーは、「酒類、飲料というふたつの重点分野を中心に、グループ全体で成長を目指す。今回のティップネスの売却はこうした方向に合致する」という。寡占化が進む業態を手放して、中核事業に集中することで収益性を向上させるのが狙いだ。一方、日本テレビは買収の理由を、「メディア・コンテンツ事業とは異なるビジネスモデルによる収益源の多様化のため」とする。

 サントリーは従来も酒類・食品・飲料以外の非中核事業の売却を進めてきた。収益の中心だったウイスキーの販売数量が激減し、業績が悪化した2000年代には、医薬品やゴルフ用品販売、出版、ハワイの不動産事業などから撤退した。今年に入り、外食コンサルティング事業からも撤退している。

 その背景にあるのが、今年5月の米蒸留酒大手ビーム社の巨額買収だ。1兆6000億円というサントリーにとって過去最大の買収で、買収資金は借り入れでまかなった。そのため2014年9月現在の有利子負債は1兆8000億円規模に膨らんでいる。財務の健全化が緊急課題だ。

 サントリーは、当面大きな買収はないとするものの、「ビーム社を買収したことは終わりではなく始まり」としており、佐治信忠会長も7月の社長交代会見で、「引退までの3~5年の間にもうひとつくらいM&Aを……」と述べた。サントリーとしても膨らんだ負債を早く減らさなければ、酒類業界のグローバルな再編の波に立ち向かえないという認識がある。酒類事業で世界3位とはいえ、上位2社「ディアジオ」「ペルノリカール」はあまりに巨大だ。(編集担当:吉田恒)