2012年、日本初の国産LCC(ローコストキャリア)が相次いで登場したことにより、日本の空は大きな転換期を迎えた。
11年の震災以降、日本への外国人旅行客の減少が続く厳しい状況の中、LCCの進出は経済面の浮揚を促す意味でも歓迎される事柄であることは間違いない。しかも、利用客の頭打ちで経営難に喘ぐ地方空港にとって、これまで電車や車、長距離バスなどを利用していた新規客層や若年層の取り込みや掘り起こし、海外観光客の誘致は大いに期待したいところではあるだろう。
しかしながら、LCCの翼がこの先、日本の空に定着するか否かについては、専門家の意見は極端に分かれている。そもそも、米国の航空自由化を機に登場したLCCはその後、世界的にシェアを伸ばしたが、急成長した会社がある一方、事業停止や経営破綻に追い込まれた業者の数も多い。ましてや、日本はLCCにはあまり適さない土地柄といわれている。その証拠に、日本へのLCCの進出は、欧米各国はもとより、他のアジアの国々と比べても大きく遅れている。その理由はいくつか挙げられるが、まず最大の理由としては「高額な空港使用料」そして「チケット流通コスト」の問題があるだろう。
LCCの成功のカギは言うまでもなく「安全面は従来通りに確保しつつ、いかにコストダウンを図れるか」にある。ところが、日本の現在の航空事情は、機内サービスを省略したり有料化する程度では実現できない環境にある。
たとえば、日本とアメリカにしかない航空機燃料税や、世界平均の3倍といわれる高額な着陸料、カウンター使用料など空港施設に関する諸々の経費、さらには日本における空港地上業務費用の水準は、シンガポールの約8倍、オーストラリアの約6倍。これらが顧客の運賃にダイレクトに影響することはいうまでもない。実際、これらが今まで、海外大手LCCの日本の空への参入の大きな障壁となっていた。
これに対応するため、国内の各空港ではLCC専用ターミナルの増設、または改装の動きが活発になりつつある。まず、12年10月に沖縄県那覇空港で貨物ターミナル内の一部を旅客用に改装し、国内初となるLCC専用ターミナルの供用を開始したのを皮切りに、関西空港、成田空港でもLCC専用ターミナルの建設に動きはじめた。これらの動きが今後、どこまでコストダウンに繋がるのかが、LCC定着のための大きなポイントになってくるだろう。
また、「チケット流通コスト」の問題についても、日本人独特の感性をどこまで合理的にシフトさせることが出来るかが焦点となる。たとえば、LCCでは基本的に、航空券の予約はインターネットを通じて自分で行なう。しかし、日本人の感覚、とくに中高年世代においては、インターネットで購入するような習慣は少なく、代理店で手配することが当たり前の感覚としてあるのだ。ビジネスでの利用ならともかく、プライベートなら「まずは旅行会社の窓口に行って」という感覚が根強く残っている。
もちろん、LCC側もマーケティングを行い、その結果から、日本市場の特異性を鑑みて、旅行代理店などを通じたチケット販売の割合を他国よりも多めに設定しようとしている。しかし、それは当然、流通コストを高めることに直結してしまう。旅客運賃に影響するようでは本末転倒だ。LCCは格安どころか、サービスが省略、有料化されている分、イメージの悪い航空会社に成り下がってしまうだろう。
海外の事例を見ても、低コストを実現したのに破綻したLCCの例は少なくない。重要なのは低コストに加えて、搭乗率を上げること。とくに日本のような風土では「安かろう悪かろう」では、搭乗率の増加は見込めない。また、LCCというモデル本来の理念が浸透することもないだろう。
LCC元年である12年は物珍しさも手伝って、各社まずまずの滑り出しを見せたようだ。しかしながら、このままでは数年後には厳しい状況が訪れてもおかしくはない。日本のLCCがはじめて経験する、お正月の帰省や卒業旅行、大型連休のシーズンで利用した客がどのような反応を示すのか、またビジネスシーンでの利用は増加するのか。マスコミやニュースで取り上げられることも少なくなっていく中、口コミでの評判をどこまで広げられるのか。2013年こそが、LCCにとって今後の十年を左右する正念場でもあり、本当の意味での元年とも考えられるのではないだろうか。(編集担当:藤原伊織)