2007年の内閣府「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」以来、政府は企業に対して育休や介護休暇など「休暇・休業制度」の整備や「働く時間の見直し」、在宅勤務などの「働く場所の見直し」などを求めている。
「ワーク・ライフ・バランス」というあいまいな言葉が普及して久しい。2007年の内閣府「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」以来、政府は企業に対して育休や介護休暇など「休暇・休業制度」の整備や「働く時間の見直し」、在宅勤務などの「働く場所の見直し」などを求めている。
この流れは今に始まったことではない。政府は80年代後半以降、何度も日本人の働き方を変えようとしてきたからだ。
1988年、欧米諸国からの圧力もあり政府は一人当たりの労働時間を年間1800時間程度とする目標を定めた。以来、日本人の法定労働時間は少しずつ引き下げられ、94年には週40時間まで短縮された。
90年代後半には共働き世帯が増加に転じ、仕事と家庭の両立支援にも追い風が吹き始める。92年の育児休業法、99年の育児・介護休業法、02~05年の改正育児休業法など、広い意味でのワーク・ライフ・バランス政策は枚挙に暇(いとま)がない。90年代には週休2日制が定着し、全体の労働時間も米国を下回るまでになった。「ゆとりある働き方」は一見、実現したようにみえる。
しかし現実はどうだろうか。フルタイム男性の1日あたりの労働時間は、過去20年間でむしろじりじりと上昇している。土日が休みになった代わりに平日の労働時間が延びたのだ 。非正規雇用の増加は平均労働時間の押し下げには一役買ったが、正社員は相変わらず長時間労働のまま。男性の睡眠時間は30年前と比べ、週あたり4時間も減っている。
日本企業は解雇規制が強く、景気の変動には労働時間を調節することで対応してきた。解雇をしない代わりに、景気が良くなれば残業を増やし、不景気時には残業を減らす。一方で非正規社員は、労働時間は一定だが不安定な地位に甘んじることとなる。
ワーク・ライフ・バランスが絵に描いた餅になる理由は、こうした日本企業の構造そのものにあるのかもしれない。さまざまな立場の社員がいるなかで一律に「労働時間を減らして仕事と家庭の調和を目指そう」と言っても、うまくいく可能性は低いだろう。