「革新」という武器を失くしたアップル

2013年01月10日 09:17

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「iPhone5」のヒットで好調を維持しているように見えるアップルだが、スマートフォンの世界シェアでは、サムスンをはじめとする「Android」陣営にまだ大きく水をあけられている。

 「iPhone5」「第3・第4世代iPad」「iPad mini」と最新機種を相次いで発売し、昨年のスマートフォン・タブレット端末の爆発的な普及に大きく貢献した米アップル社製品。新製品が発売される度にアップルストア前には長蛇の列ができ、いち早く手に入れようとする「信者」とも呼ばれる熱狂的なファンを多く持つことも、アップル社製品の大きな特徴と言えるだろう。

 ソフトバンク<9984>のみが販売していたiPhoneを2011年末からKDDI(au)<9433>も加わることで、国内のiPhoneユーザー数は爆発的に増えた。さらに、昨年に発表されたiPhone5の大ヒットはそれに拍車をかけることになった。一昔前、日本では一部のクリエイターやコアなファンにしか支持されていなかったリンゴマークの製品が、iPhoneやiPadの登場によって、今では一般の学生や中高年など幅広い層にすっかり浸透してしまっているのだ。

 日本国内では、iPhoneやiPadなど、アップル陣営の勢いが加速しているように思われるが、世界に目を向けてみるとどうだろうか。確かにアメリカのスマホ市場においては、昨年遂にアップルの「iOS」陣営が初めてシェア50%を超え、グーグルの開発したOSを使う「Android」陣営を抜いてトップになったようだが、ヨーロッパ各国では、韓国サムスン電子製のスマートフォンが好調で、iPhoneユーザー層を徐々に浸食し始めている傾向が見受けられる。米国調査会社IDCが発表したデータによると、2012年第3四半期の世界のスマートフォンOS別シェアは、Androidが75%に対し、iOSが14.9%となっている。Androidは多くのメーカーから発売されているのに比べ、iOSはアップル1社の端末のみということを考えると単純に比較することはできないが、メーカー別の出荷台数においても、世界シェア1位のサムスンに2位のアップルは2倍以上の差をつけられており、大きく水をあけられているのだ。

 しかし今後、スマートフォンの新規ユーザー獲得が大きく見込めるのは、潜在的需要が大きいアジア圏を中心とする新興国市場だろう。特に若者の人口も多く、経済成長著しい東南アジア諸国においては、スマートフォンの普及率も急速に拡大している。しかし、これらの国々においてiPhoneも出荷数を増やしているが、高額なため一部の富裕層に限られているのが現状で、大多数を占める一般層には、ファーウェイ(華為技術)やZTE(中興通訊)など中国メーカー製の比較的低価格で購入できる高機能スマートフォンが支持されているようだ。今後、アップル社が低価格のiPhoneを開発していると噂されていることからも、このようなアジアの有望市場において、中国メーカーと対抗するための何かしらの手段を模索しているものと考えられる。

 昨年末に発表されたiPhone5の世界中での成功や最新のAndroid端末でシェアを伸ばしたサムスンの大躍進などにより、スマホ・タブレットのOSの分野では、アップルとAndroidを開発したグーグルの一騎討ちの様相がさらに濃くなってきているのは確かだ。しかし、今後そこへ徐々に割ってくると考えられるのが、スマートフォン向けOS「Windows Phone」を発売するマイクロソフト社だ。昨年末には、パソコン用OS「Windows8」と共通のWindows NT系カーネルを採用した「Windows Phone8」を発表し、海外では、フィンランドのノキアや台湾HTCなどの新機種で発売されている。日本のキャリアから発売される予定は今のところないようだが、マイクロソフト社はこれから成長が見込まれるスマートフォンに本気で力を入れてくることが予想されていることから、PCのOSでは長年に渡ってシェアを独占してきた化け物だけに、2強を脅かす第3の存在になる日はそう遠くはないだろう。

 iPhone5が発売された昨年9月には株価が自社の過去最高値を更新したアップルだが、ここにきてその勢いにかげりが見え始めている。少しのバージョンアップによるスパーンに短い新製品ラッシュには、アップル製品をずっと支持してきたコアユーザーですら、少し冷ややかな目で静観しているようにも思える。初代iPhoneやiPadを発表されたとき、革新的技術を独創的アイデアとデザインで包み込んだ魔法のような新しいツールが誕生したとワクワクしたものだ。実際にこれまでアップルは、独自のアイデアと大胆な戦略で、PCから音楽プレイヤー、スマートフォン、タブレット端末などで世の中を変えるようなエッジの効いた革新的な製品を生み出してきた実績がある。

 2011年にスティーブ・ジョブズという絶対的なカリスマ的存在を失い、次のフェーズに入ったアップルが、2013年は我々のどんな驚きを与えてくれるのだろうか。リンゴのマークにもう一度あの時のようなワクワクを感じてみたいと期待しているファンは少なくないはずだ。(編集担当:北尾準)