観光地などに行くと名所や仲間に、カメラではなくスマホを向ける人が当たり前のようにみられるようになった。スマホは今やほとんどの人が持っており、カメラ機能は当たり前のように搭載されている。しかも、デジカメとほとんど変わらない画質であるから、これほどお手軽な撮影道具はないのだろう。
この便利さに、さらに拍車をかけたのは、棒の先端にスマホを取り付けて誰かに撮ってもらったかのような写真を撮ることができる「自撮り棒」である。若い年齢層を中心に利用され、観光地などで利用しているのをご覧になったこともあるのではないだろうか。自撮り棒を利用することで、いつでもどこでも写真撮影ができることは大変便利である。
しかし、この便利さがエスカレートしてしまい、ついには使用を禁止する場所まで出てきた。
その中の一つが、JR金沢駅である。最近、北陸新幹線の開業でにぎわいを見せているこの駅で、撮影のために伸ばされた棒が他の利用者にぶつかる危険性もあるということ、車体に触れて運航に支障をきたす恐れがあるからだ。
同駅構内では、改札や待合室などの4カ所に注意を促すディスプレイを設置。改札口で自撮り棒を使用している利用者を見かけたときには使わないようにと係員が声をかけ、周知徹底をはかっている。
このような禁止措置は、金沢駅に限ったことではない。動物園や遊園地、神社仏閣などこれから観光シーズンを迎えるところで広がりを見せつつある。カメラに夢中になるあまり、周囲をよく見ていないことで利用者同士のトラブルが起きているとも聞く。
なぜ自撮り棒という一見奇妙なアイテムがこれほどまでに普及を見せたのか。利用者に聞いてみると、「知らない人にシャッターを押してもらうのが煩わしい」「SNSに自分が写った写真をアップしたいから」といった回答が目立った。
かつて、観光地で写真を撮ってもらおうとすると、同じ場所に居合わせた見知らぬ人に頼むことが普通である。それさえも煩わしいとは、コミュニケーションが希薄化していることに他ならない。また、SNSにアップされている写真を見ると、確かに投稿者が写っているものが多くなってきていると感じる。これはプライバシーの心配よりも、自分の存在を認めて欲しいという欲求から来ている行為ではないだろうか。自撮り棒を通して、現代における人との関わり方に対する姿勢の一部を垣間見た気がする。(編集担当:久保田雄城)