私たちの日頃使う、携帯電話、腕時計、ボールペン…パナソニック<6752>、カシオ<6952>、ぺんてるといった著名メーカーが提供するそれらのものに、小さな町工場の先端技術が生かされていることを知る人は少ない。だが近年、下町の中小企業や工房が日本有数のクリエイターたちとタッグを組み、昔ながらの“和の粋”にモダンなスタイルを融合させた新商品を開発、「懐かしくて新しい」そんなコンセプトのもとに町や産業の活性化を推進する地域がある。東京都墨田区。新ブランド名は「すみだモダン」である。
戦前から、隅田川や荒川に挟まれた好適な立地条件を生かし、首都近郊の主要な軽工業地帯として発展を遂げてきた墨田区。一方、隅田川堤の桜並木や両国国技館など名所にも恵まれ、成長期以後は観光産業や伝統芸能の振興にも力を入れてきた。
そんな中、2012年、墨田区に東京スカイツリーがオープン。これを機に、商品やサービス、観光、イベント、そして暮らしや文化までひっくるめて墨田区の価値そのものを発信していく「すみだ地域ブランド戦略」が構想された。
先祖代々受け継がれた鏨(たがね)による金属加工の技術を用い、古くから神殿の御輿(みこし)の装飾に携わってきた墨田区の塩澤製作所も、このブランド戦略の一つである「ものづくりコラボレーション」に参加。和風デザインのおしゃれなピアスや名刺入れ、カードスタンド等を製作し、多くの観光客を魅了している。また、江戸切子と呼ばれるガラス工芸も墨田区に伝わる伝統技術の一つだが、和模様をあしらったグラスばかりではなく、その繊細かつ色鮮やかなデザイン性を取り入れたモダンな室内照明なども、訪れた外国人たちに人気を博しているようだ。
すでに海外に認められ、進出しているケースもある。上述のパナソニックの携帯電話に、お馴染みのきらきら輝く装飾を施している吉田テクノワークスも、墨田区の中小企業の一つ。「インモールド」と呼ばれる特殊な技術を駆使して、メタリックなグラデーションに彩られた美しいカードケースを作製し、イギリスの有名ファッションブランド“ポール・スミス”やフランスの“コレット”等から注文を受け、現地で販売されているという。
江戸時代から伝わる町工場の“匠の技”が現代のファッションやライフスタイルにマッチした斬新な“ものづくり”で、「古きよき、新しい日本」を国内だけでなく世界に向けて表現する。小さな下町、墨田区の壮大な挑戦は、いま始まったばかりである。(編集担当:久保田雄城)