5月8日、総合商社大手5社の2015年3月期本決算が出揃った。原油や鉄鉱石や銅など資源価格の下落が各社の資源分野を直撃。資源開発事業の減損損失計上も続出して、住友商事はそのために赤字決算になるなど、資源分野への依存度が業績の明暗を分けた。2016年3月期の今期見通しも資源分野は苦戦が続く見通しで、金融や機械など非資源部門の収益をどこまで拡大できるかが業績を左右する重要なポイントになりそうだ。なお、今回の決算で特徴的なのが業績にかかわらず株主還元策に積極的なことで、三井物産は減収減益でも5円増配して減益見通しの今期も据え置きの計画。三菱商事は1000億円規模の自社株買いを行い、住友商事は赤字決算でも3円の増配、丸紅は大幅減益でも1円の増配で、減配は1社もなかった。
資源価格の下落が各社の資源分野を直撃した
2015年3月期の実績は、三井物産<8031>は売上高2.9%減、税引前利益21.6%減、当期利益12.6%減、最終当期利益(連結純利益)12.5%減の減収減益。それでも年間配当は前期比5円増の64円。総合商社の中でも資源部門の比率が高いため、原油安や鉄鉱石など資源価格の下落に直撃された決算。鉄鉱石価格の下落による利益の下押しは1140億円にのぼる。銅鉱山、シェールオイル・ガスの開発、北海油田・ガス田などでの減損損失790億円も利益を押し下げた。
三菱商事<8058>は収益0.4%増、税引前利益8.0%増、当期利益5.2%増、最終当期利益10.9%増の増収増益。年間配当は記念配10円を含めて前期比2円増の70円だった。資源価格下落の影響でLNG、シェールガス開発などで1270億円の減損損失を計上して資源分野の純利益は26%減。しかしインフラ向け投資やリースなどの新産業金融事業、海外発電事業、畜産といった非資源分野が順調に伸び、ローソン<2651>の株価上昇に伴う減損の戻し入れ益約600億円も寄与して増益になった。
伊藤忠商事<8001>は売上総利益4.2%増、営業利益5.6%減、税引前利益16.0%増、最終当期利益22.5%増の増収、最終増益。最終利益は2期ぶりの過去最高益だが年間配当は前期と同じ46円。原油、石炭、鉄鉱石の価格下落で資源分野は計画未達だったが、北米での自動車販売やプラント建設、独立系発電事業(IPP)など非資源分野が好調で、シェールオイル開発で計上した130億円の減損損失をカバーした。
住友商事<8053>は売上高5.5%増だが営業損益は843億円の赤字、税引前損益は185億円の赤字、当期損益は708億円の赤字、最終当期損益は731億円の赤字という赤字決算。巨額の減損損失を昨年9月29日に発表した時にはマーケットに「住商ショック」が走った。それでも年間配当は前期比3円増の50円。赤字の原因はアメリカのシェールガスやブラジルの鉄鉱石など海外の資源関連事業の減損処理で、減損損失は合計3103億円に達した。
丸紅<8002>は売上高2.1%増、営業利益2.0%増、税引前利益47.3%減、当期利益47.1%減、最終当期利益49.9%減の増収、大幅最終減益。年間配当は前期比1円増の26円だった。原油や石炭など資源分野で1330億円の減損損失を計上したのが響いた。
双日<2768>は売上高1.5%増、営業利益41.6%増、税引前利益19.4%増、当期利益17.4%増、最終当期利益21.4%増の増収、2ケタ増益。年間配当は前期比2円増の6円だった。プラントや航空関連の取引増、北米の自動車販売事業など非資源の機械分野が好調で、海外肥料事業の減益、中南米の自動車販売の損失、合金鉄権益の減損などを補って最終利益は計画を達成した。
非資源分野の踏ん張りが業績を左右するか
2016年3月期の通期業績見通しは、三井物産<8031>は最終当期利益(連結純利益)だけを公表し21.7%減の減益を見込む。それでも予想年間配当は前期と同じ64円。鉄鉱石や原油の価格下落で資源関連部門の収益は前期に引き続き落ち込む見通しで、前期より減損損失は減っても大幅減益の見込み。3月にアメリカのトラックリース会社に出資するなど非資源分野への投資を強化し、資源分野の落ち込みをカバーする方針。
三菱商事<8058>は最終当期利益(連結純利益)だけを公表し10.1%減の減益を見込む。予想年間配当は前期比14円減の56円。前期の記念配を除けば実質4円減。資源分野は苦戦が続き、前期に計上したローソン株の減損戻し入れ益がなくなるのが大きな減益要因だが、利益源の非資源分野が伸びれば業績が上方修正される可能性はある。
伊藤忠商事<8001>は売上総利益1.0%増、営業利益12.0%減、税引前利益3.0%減、最終当期利益9.8%増という増収、最終増益を見込む。最終利益は過去最高。予想年間配当は前期比4円増の50円。決算と同時発表の3カ年の中期経営計画では最終利益を2015年3月期の3005億円から4000億円まで増やす。タイ財閥のチャロン・ポカパン(CP)グループ、中国の国有複合企業、中国中信(CITIC)との戦略的提携をもとに、アジアでの事業基盤・領域を拡大していく。
住友商事<8053>は売上高が8兆6000億円でほとんど増減なし。税引前利益2900億円、最終当期利益2300億円の黒字転換を見込む。予想年間配当は前期と同じ50円。減損損失が出なければ2014年3月期(2230億円)と同じ程度の最終利益は望める。
丸紅<8002>は売上高0.5%増、営業利益6.7%減、税引前利益100.6%増(約2倍)、当期利益68.5%増、最終当期利益70.4%増の増収、大幅最終増益を見込む。予想年間配当は前期比5円減の21円。固定資産の減損損失など一過性の損失が消えるため利益が持ち直す見通し。
双日<2768>は売上高7.2%増、営業利益20.7%増、税引前利益11.3%増、最終当期利益20.9%増の増収、2ケタ増益を見込む。予想年間配当は前期比2円増の8円。非資源分野の航空機、プラント、北米の自動車販売の好調は今期も続く見通し。(編集担当:寺尾淳)