加速する日本企業のグローバル化。世界を見据えた「グローバル本社」とは?

2015年05月30日 20:44

en0108_07

グローバル本社の存在は日本スタイルの事業の浸透を図るのではなく、世界全体を見渡して柔軟にニーズ応えていく必要があるのだ

 急速に成長するアジア市場。とくにASEAN経済共同体(AEC)が2015年末に発足することで、各国の自動車製造関連企業などを中心に注目が高まっている。AEC圏内だけをみても6億人規模の巨大マーケットだが、さらにその隣には人口13億人を擁する中国やインドが控えている。とくに中国にとっては海を隔てた貿易を行う際、昔からASEAN諸国は重要な貿易ルートであった。AECの発足によって関税が撤廃され、モノや人の行き来が活発になると、中国にとってもASEANはますます重要なエリアとなるだろう。

 そんな中、日本企業も世界市場での生き残りと、さらなる飛躍を求めて、グローバル化の動きが盛んになっている。とくに近年、活発になっているのがグローバル本社の設立だ。

 これまで、日本企業の多くは日本本社に海外部門や海外支社を置くことで世界の市場に対応してきた。しかしながら、ASEANをはじめ新興国マーケットの拡大と変化が著しい現状において、これまでの成長スタイルは限界にきている。日本スタイルの事業の浸透を図るのではなく、世界全体を見渡して柔軟にニーズ応えていく必要があるのだ。その為にグローバル本社の存在は必要不可欠となってきている。

 2012年には三菱商事<8058>の金属資源部門がシンガポールに本社機能を移転したことで大きな話題となった。シンガポールの法人税は17%。日本の40%に比べて半分以下ということもあり、税金優遇の理由ばかりが取り上げられがちだが、それだけの理由で大手商社が主力部門を移転するはずはない。今後の世界展開を見据えたグローバル本社の設立であるのは言うまでもない。また、同年には一般消費財大手のP&Gも、アジアの本部を神戸の六甲アイランドからシンガポールに移転している。

 日産自動車<7201>も、横浜のグローバル本社の他に、アジアの発展に伴って高級車の需要が高まることを見据え、同社の高級車ブランド「インフィニティ」に特化したグローバル本社・日産グローバル(NGL)を設立した。

 一方、海外だけでなく、国内でグローバル本社を設立する動きも活発になっている。海外ではなく、あえて日本国内でグローバル本社を立ち上げる目的には、グループ会社の管理や従業員の意識改革などの狙いもあるようだ。

 例えば、直近では今年4月、自動車用防振ゴム・ホース部門で国内トップシェアを誇る住友理工株式会社<5191>が、来年1月に愛知県名古屋市にグローバル本社を設立することを発表している。同社は、現在世界20ヶ国以上で事業を展開、長年、愛知県小牧市に本社を置いてきたが、リニア開通を前に開発著しい名古屋中心部にグローバル本社を設立することによって、経営管理体制を強化するとともに、世界に通用する人材の採用・育成を行い、ダイバーシティへの理解を高めていくとしている。

 日本企業がグローバル本社を設立すると、日本市場をないがしろにしているとか、日本経済の空洞化が進んでしまうなどと、ネガティブな見方や批判めいた意見が噴出することもある。しかし、グローバル本社とはそもそも、そういうものではない。ローカル本社とは守備範囲が異なるし、ある意味、本社が日本の市場に集中するために置かれるものとも考えられる。それでなくても、日本の企業は世界的にみてグローバル化がたちおくれているといわれている。日本経済の発展のためにも、グローバル化の動きは歓迎したいものだ。(編集担当:藤原伊織)