攻めのIT経営、なでしこ、健康経営……。経産省・東証が「テーマ銘柄」を発表する意図は何か?

2015年06月13日 21:10

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それぞれの「テーマ銘柄」に選定されている企業を分析すると、複数の「テーマ銘柄」に並列して選定されている企業がある

 5月26日、経済産業省は東証と共同で新しい「テーマ銘柄」として「攻めのIT経営銘柄」を選定・発表した。銘柄数は18で、業種ごとに最も取り組みの優れた企業として1銘柄ずつの選定となっている。

 「攻めのIT経営」とは、ITの活用による企業の製品・サービス開発強化やビジネスモデルの変革を通じて、新たな価値の創出、それを通じた競争力の強化を目指す経営のこと。社内の業務効率化やコスト削減が中心になりがちな「守り」のIT化ではなく、より積極的にITを事業に活用することが「中・長期的な企業価値の向上」につながるとしている。アメリカでは「攻め」のIT化を積極的に行っている企業は高い収益をあげ、企業価値を高めているという。また、これらの中でもITのイメージが湧きにくい積水ハウス<1928>(建設)、アサヒGHD<2502>(食料品)、ブリヂストン<5108>(ゴム製品)などが選定されており、どのような取り組みが評価されているのか興味深いところだ。

 経済産業省と東証は、「攻めのIT経営銘柄」よりも前に2013年より「なでしこ銘柄」、2015年3月に「健康経営銘柄」を選定・発表している。政府の2014年に改訂された「日本再興戦略」では、大きく3つの挑戦として1)日本の「稼ぐ力」を取り戻す、2)担い手を生み出す、3)新たな成長エンジンの育成、を掲げており、それぞれの推進のため、1)に「攻めのIT経営銘柄」、2)に「なでしこ銘柄」、3)に「健康経営銘柄」が創設されている。その共通点を見てみると「テーマ銘柄」の意図が見えてくる。

 「なでしこ銘柄」は、女性のキャリア支援、仕事と家庭の両立支援という二つの側面からスコアリングを行い、各業種上位企業の中から財務面のパフォーマンスも良い上場企業を選定している。「健康経営銘柄」は、従業員の健康管理を経営的な視点から考え、戦略的に実践している上場企業を1業種につき1銘柄選定している。どちらも、選定企業は従業員の活力向上、生産性の向上などの組織活性化がもたらされ、「中・長期的な業績・企業価値の向上」で投資家から理解と評価が得られて、株価も上がると期待されている。

 「攻めのIT経営銘柄」「なでしこ銘柄」「健康経営銘柄」それぞれに共通しているキーワードは、「中・長期的視点からの企業価値の向上」だ。IT化、女性活用、従業員の健康管理それぞれの分野で努力し、企業価値の向上という成果を残している企業を、「魅力的な銘柄」として投資家に紹介することが選定の大きな目的だということがわかる。

 それは東証が、一般の個人が株式投資をより身近に感じられるようにし、個人投資家の市場参加をより増やすために取り組んでいる「日本経済応援プロジェクト『+YOU(プラス・ユー) ~一人ひとりがニッポン経済』」の活動の一環であることも関わっている。

 「株式投資を始めたいが、どんな銘柄を選べばいいのだろうか?」と迷っているビギナーの個人投資家に対し、中・長期的投資、つまり長期保有銘柄の目安として、IT経営、女性活用、健康経営という視点で切り取って選んだ「テーマ銘柄」を示したものという意図が感じられる。

 それぞれの「テーマ銘柄」に選定されている企業を分析すると、複数の「テーマ銘柄」に並列して選定されている企業がある。これらは「中・長期的な企業価値向上」の可能性がより高い企業と言えるのではないだろうか。株価の短期的なパフォーマンスではなく、中・長期的な企業価値の向上を買う。そんな投資行動が個人投資家の間にひろまった時、日本の株式市場はアメリカ並みのふところの深さを獲得できるだろう。(編集担当:寺尾淳)