カドミウムを吸収する「イネ」とは 農環研と生物研が汚染水田浄化用に開発

2015年07月29日 06:47

 カドミウムとは天然に広く存在する重金属であり、鉱山開発、精錬などにより環境中に排出されるなど、様々な原因により一部の水田などの土壌に蓄積している。食品衛生法による国内基準値(0.4 mg/kg 以下(玄米・精米))を超えるカドミウムを含むコメが生産されないようにする対策として、これまで土の入れ替え(客土)が行われてきた。しかし、客土はコストが高く、大量の非汚染土を必要とすることから、これに代わる新しい対策技術が求められていた。

 これを受け、国立研究開発法人農業環境技術研究所(農環研)は、国立研究開発法人農業生物資源研究所(生物研)と共同で、カドミウム汚染水田の浄化に利用できるカドミウム高吸収イネ品種を開発し、「ファイレメCD1号」 として品種登録出願した。

 カドミウムをよく吸収するイネ(カドミウム高吸収イネ)をカドミウム汚染水田で栽培し、カドミウムを吸収した植物体を取り除くことで、土壌中のカドミウムを除去する方法がある。水田でイネを栽培し、カドミウムがイネに吸収されやすいように水管理方法を変え、刈り取るだけで実施できるため、生産者が取り組みやすくコストも低いという利点があるという。

 しかし、カドミウム高吸収イネとして利用が検討されてきた外国のインディカ品種である「長香穀(ちょうこうこく)」は、「わら」や「もみ」に多くのカドミウムを蓄積するが、収穫前にもみが脱落しやすく、また倒れやすいという欠点があった。これらの欠点は、収穫作業に手間がかかり、また、水田に落ちたもみが次の年に発芽して、他のイネ品種に混入する原因になった。このため、脱粒性と倒伏性とを改善し、生産者が栽培しやすいカドミウム高吸収(集積)イネの開発が望まれていた。

 そこで、両者は、「長香穀」と同程度のカドミウム吸収能力を持つ「ジャルジャン」を用いて、実用的なカドミウム高吸収(集積)品種の開発に取り組んだという。「ファイレメCD1号」は、カドミウム高吸収品種「ジャルジャン」へのガンマ線照射によって作出された、難脱粒で草丈が短い(短稈の)突然変異体。まず、生物研の放射線育種場においてガンマ線を照射した「ジャルジャン」の種子を農環研で栽培し、変異処理2世代目(M2世代)の種子を得た。このM2世代を栽培した約25,000個体の中から、収穫期にもみがこぼれ落ちない難脱粒変異体を10個体選抜し、さらに、この10個体の中から、難脱粒で、かつ草丈が低く短稈化した1個体(系統名:MJ3)を選抜した。この「MJ3」のカドミウム吸収性とその他の特性をほ場で確認し、「ファイレメCD1号」と命名した。

 「ファイレメCD1号」のカドミウム吸収能力は、日本の食用品種の約10倍で、「ジャルジャン」や「長香穀」と同等。また、脱粒性も、母本である「ジャルジャン」と比較して大きく改善され、難脱粒品種であるコシヒカリとほぼ同等だった。地面から穂のつけ根までの長さは「ジャルジャン」と比較して短く、収穫期の倒伏が軽減された。さらに、日本の食用品種より背が高く、また、長粒の赤米であることから、日本の食用品種とは明確に区別できる。

 今後、2016年度までの予定で実用性を検討している。また、水田のファイトレメディエーションの効果は食用米だけでなく、二毛作や田畑輪換の際のダイズやコムギなど、他の作物中のカドミウム汚染リスクの低減にも応用可能だとしている。(編集担当:慶尾六郎)