どう読み解く?有識者懇談会報告書 

2015年08月08日 10:07

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 安倍晋三総理は「戦後70年総理談話」を閣議決定のうえ、14日に発表する意向だ。安倍内閣として正式な談話になる

 安倍晋三総理は「戦後70年総理談話」を閣議決定のうえ、14日に発表する意向だ。安倍内閣として正式な談話になる。閣僚はもちろん、与党としても責任を負う重みのあるものになる。

 そして、これを作成するうえで重要資料となる有識者懇談会の「報告書」は6日に総理に手渡された。総理官邸HPから全文みることができる。是非、一読してほしい。どう読み解くかは,あなた次第だ。以下は筆者の受け止めの一部。

 全体として、安倍総理が進めようとする、安倍総理の積極的平和主義、日米同盟の強化、自衛隊による海外活動拡大の方向性を後押しする流れになっていると感じた。

 日本の安保分野の姿勢について、報告書は「第二次大戦後、日本は日米安全保障条約が可能にした軽武装、平和路線の道を一貫して歩み、経済発展に邁進してきた。日本は過重な防衛費を負担することなく安全保障を確保し、経済復興に専念するために、日米安保条約の締結と米軍の駐留継続を選択した。日本が安全保障面において国際秩序の安定に貢献しようとする意識は低く」と表記。『日本が安全保障面において、国際秩序の安定に貢献しようとする意識は低』かったと断定している。

 そのうえで「消極的姿勢は1990年代に入ると転換を見せる」とし「第一次湾岸戦争後の掃海艇派遣(1991年)、 国連平和維持活動(PKO)への参加、その後の日米防衛ガイドライン改定(1997年)、9.11同時多発テロを契機として始まった米国のテロとの戦いにおけるインド洋給油活動(2001年~2010年)、アフガニスタン復興支援国際会議を中心とする同国への支援(2002年~)、イラクでの人道復興支援(2003年~2009年)、ソマリア沖・アデン湾における海賊対策(2009年 ~)といった積極的平和主義の歩みを進め、ようやく安全保障分野における積極的な国際貢献を開始し」と現在まで続く安保の姿勢と報告している。

 この項では、こうした活動はしてきたものの「実際のニーズからは常に半歩遅れの行動であったことは否定できない」と結論づけ「湾岸戦争での輸送や医療面での協力、インド洋でのパトロール活動への参加、イラクでの住民の安全確保のための活動などは行い得ず、国際社会の要望に完全に応える形で貢献を成し遂げてきているとは言えない」とした。そのために現在審議中の安保法案の成立が必要なのだということにつながっていくようだ。

 また、防衛予算の確保にも後押しした。「日本は日米安保体制の抑止力と信頼性向上のために、自衛隊の能力に相応しい形で、米国との防衛協力を進めてきた。しかし、本来は同盟国である米国との役割分担に従って決めるべき防衛力の水準を『GNPの1%以内』と日本が定めてきたことは、日米安保体制に一定の制約を課すことにもなった」とした。

 「中国の軍事費が膨張する中で日本の防衛費を経済指標(GNP)にリンクし続けることの妥当性についての検討も必要になろう」と見直し検討を後押しした。

 安倍総理が進める安保法案をサポートする文脈ではないのかと思われる部分は、日本がどのような貢献をするべきか、の項目にも顕著だ。

 報告書は「国際社会は1990年代前半から脈々と発展してきた日本の積極的平和主義を評価しており」とし「安全保障分野において日本が今後、世界規模で従来以上の役割を担うことが期待されている」と世界から「非軍事分野を含む積極的平和主義の歩みを止めず、これを一層具現化し、国際社会の期待に応えていく必要がある」としている。裏を返せば『軍事的分野でも積極的平和主義の歩みをすすめることが国際社会から期待されている』といいかえることのできる報告になっている。

 しかも報告書は「一国が国際的な役割を増大するに際しては、国内外で懸念や反対の声が出ることも珍しくない」と現在、国会周辺や国会外での全国的な安保法案への反対運動を視野に言っているのかと思わせる表記で、「日本政府は国民に対して、新たな貢献の意義につき十分に説明をして理解を得るよう努め、各国に対しては、日本は国際社会で共有された価値観に基づき、関係国との合意によって物事を成し遂げていく国であることを丁寧に説明していく姿勢が求められる」と提言する。この報告書の全文をどう読み解くかは、まさに、それぞれの受け止めなのだろう。

 懇談会の西室泰三座長(日本郵政社長)は「特に若い世代に読んでもらいたい。歴史への理解を深める一助になることを切に願う」と語ったとマスコミが報じた。
 
 過去の戦争に対する反省とおわびについて、北岡伸一座長代理(国際大学長)は「1930年代以降の政府、軍の指導者の責任は誠に重いと言わざるを得ない、と書いた」と説明したという。これは反省でもお詫びでもない、懇談会の「事実認識」に過ぎない。

 戦争中に果たした靖国神社の役割、韓国との関係で最もギクシャクしている慰安婦問題への切り込みがない。北岡座長代理は「70年談話を出すための参考で、70年の歴史や和解のプロセスが我々の論点で、そうしたことは全く議論にならなかった」と答えている。

 過去の歴史を踏まえ、国際社会との友好関係を発展させる参考にもしてほしいという報告書でもあるとすれば、日韓関係に今も横たわり、日韓首脳会談の障害にもなっている、この問題について、切り込む課題であったことは間違いない。侵略と植民地支配の一時期の歴史を客観的に踏まえたうえで、日韓、日中、日中韓の関係深化を図っていくうえで、回避できない課題ではないのか。

 報告書は日本がとるべき具体的施策も提起した。そこには「世界各国の研究者が世界史やアジア史について共同研究を行う場を提供すべきで」との提案もある。

 「これまで日本は、中国、韓国との間で二国間の歴史研究は実施してきたが、さらに各国の歴史について相互に理解を深めるとともに、グローバルな視点から過去を振り返るため、20世紀における戦争、植民地支配、革命などについて、多くの国が参加した形での歴史研究の実施をめざすべきである」としており、是非、具体化に期待したい。

 同時に、アジアの歴史について、中学・高校で使用する歴史教科書を日韓中3か国共通のものになるよう、イデオロギーを超え、客観的事実(証拠)のみに基づいた歴史教科書づくりを目指す場を3か国協力して実現してほしい。

 特に、同じ価値観をもつ韓国は隣国として、国交正常化50周年の今年を新たな親交深化の年にすべく、官民があらゆるルートを通した努力を継続することが望まれている。そうした意味からも、14日の安倍総理の総理談話を注視したい。(編集担当:森高龍二)