来春から中学で使用される教科書の採択が全国の自治体で進んでおり、今月末に終了するが、4年前の教科書採択更新時には、自民党の本部が地方の自民党議員に「教科書採択に関しては各地方議会における活動が死活的に重要」と明記した通達を出していた。
通達では「教科書採択に関する我々の取り組みが、日教組・市民団体等から『不当な圧力』などと批判を受けないよう、活動にあたって節度と良識を持ってご対応いただきますよう併せてお願い申し上げます」とも記されていた。
「教育を正す東葛市民の会」のHP(2011年6月21日)にアップされ、紹介されている日本教育再生機構の教育再生メールニュース(平成23年6月20日)に自民党組織運動本部地方組織議員総局・衛藤晟一総局長名で、自民党都道府県支部連合会幹事長あてに、この年の5月25日付けで発出された「平成23年夏の中学校教科書採択への取り組みについて(要請)」の文がアップされている。
それによると「教科書採択に関しては各地方議会における活動が死活的に重要」と明記し、議会質問などを行うよう、質問文案まで提供していたことが分かる。首長や教育委員長に答弁を求めるもの。また議会決議文案も示していた。
議会での質問文案では「下記の事実および史実について知事(市町村長)及び教育委員会委員長に御所見を伺います」と議会質問冒頭の入りから提示し「自衛隊は憲法違反ですか? 国土防衛や災害派遣で活躍している自衛隊を『憲法違反』と疑えるという紹介をする教科書について、率直にどう考えますか?」
「学習指導要領にて、国旗・国歌の『意義』と『相互に尊重することが国際的儀礼』であることを理解させることを求めているが、数行で誤魔化して、きちんと教えていない教科書でよいと考えるのか?」
「歴史上明確に疑われる事案について、一面的となっている教科書でよいのですか?例えば南京事件について、日本側が一方的に極悪非道に扱われている教科書で、子供たちの日本国への関心が高まりますか?」などを問うよう例示している。
自民党が求める教科書に近いものに誘導するための議会質問といわれかねない要請だ。質問内容に問題があるわけではなく、地方議員として、議員の立場で疑問を質すには大賛成だが、背景については疑問が残るものだった。
朝日新聞は23日、「政治は採択に関わるな」との見出しで社説を書き「教科書は政党の主張を教え込む道具ではない」「自らの主張に近い教科書を選ぶよう働きかける行為は慎むべきだ」と教科書採択の政治的中立性の確保を訴えた。
自民党の議員連盟が地方議員に社会科の各社の教科書で、国旗・国歌や集団的自衛権、憲法改正、慰安婦問題、南京事件などの表記について比較したパンフレットを配布したことに、保守色の強い教科書を選んでもらう狙いがあると懸念したものだ。全国の中学でどのような教科書が使用されることになるのか、教科を担当する教諭のバランス感覚も求められている。(編集担当:森高龍二)