Amazon 全商品無料配送サービスが事実上終了

2013年01月19日 07:55

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Amazonのシェアを爆発的に伸ばした一因である「全商品無料配送」サービスが事実上終了した

  eコマースで圧倒的な勢いを誇る巨大企業Amazonは、2013年に入ってまた、新たな動きを見せた。

  同社は、10年11月から全商品無料配送サービスを開始し、単品の注文や商品サイズに関わらず段ボールを配送時に利用する物流システムを構築してきたが、一部の低価格商品について、単品での販売および無料配送を終了したのだ。

  もともと、アマゾンジャパンの国内配送料は通常300円。ただし1500円以上購入した場合には無料となるものだ。しかし、このキャンペーンでは、例えば255円のパソコン用LANケーブルを買っても、100円のボールペンを買っても、配送料は無料になっていた。

  今回の改正により、Amazonで、数百円程度で販売されている家庭用品や食品などの低価格賞品の一部が、単品では注文できなくなり、「あわせ買い」対象商品となる。「あわせ買い」対象商品は、他の商品とあわせて注文の合計額が2500円(税込)以上であれば購入できるが、単品では注文できない。これは、年会費3900円を払って利用しているAmazonプライム会員でも同様の扱いとなっている。

  現在「あわせ買い」の対象商品は鉛筆や砂糖、消臭スプレーといった食料品や家庭用品などの約10品目のみに留まっているが、今後、対象商品を拡大する模様だ。ともあれこれで、ここ数年でAmazonのシェアを爆発的に伸ばした一因である「全商品無料配送」サービスが事実上終了した形となり、大きな注目が集まっている。

  そもそも、数百円の商品を送料無料で販売したら、赤字は必至だ。でも、消費者心理もまた然り。200円の商品を購入するために300円の送料を支払うのは、いささか気が引けてしまうものだ。実際、低価格の商品をWEBで購入しようとしたけれど、送料負担がネックとなって注文を取りやめたという経験のある人も少なくないだろう。

  送料無料キャンペーンを行ったことにより、Amazonが損を被る取引が少なからずあったとしても、「アマゾンで買うとお得」「アマゾンなら気軽に買える」「アマゾンなら安い」というイメージを消費者に植え付けることに成功した。

  一度離れてしまった客を再度引き戻すことは容易ではないが、逆に一度ファンになった顧客は簡単に離れることはない。最初は低価格商品の購入で赤字を被ったとしても、次回は利益幅の大きな高額商品を注文するかもしれない。そして、それを後押しするサービスがAmazonにはある。

  たとえば、インターネット通販ショッピングの大きなネックの一つは決済方法の複雑さ。基本はクレジットカードの利用になるが、セキュリティの面や、入力の煩わしさなどで敬遠する人も多い。そこで、Amazonでは、そういった要望に対してもコンビニ決済を導入するなどの対応を行なっている。

  もちろん、こういった顧客のハードルを下げるサービスは、他社のインターネット通販でも行なわれていることではあるが、Amazonの場合、ライバル会社がやっていることはほとんど網羅している。その結果、「Amazonは便利」と、顧客に印象付け、リピーターを獲得することに成功している。

  ちなみにAmazonでは売上高は堅調に伸びているものの、実質の純利益は赤字であることが多い。例えば、12年の10月に発表された2012年代3四半期の決算発表によると、純売上が前年同期比27%アップの138億1000万ドルであるのに対し、最終的な純利益に関しては、前年同期の6300万ドルの黒字から一気に、2億7400万ドルの赤字転落となっている。

  これはKindle Fire端末への開発投資、フルフィルメントセンターの増設、WEBサービスのクラウドストーレージへの投資など、様々な先行投資が重なっているためだとも思われるが、この増収減益ぶりをみると、同社と市場を争うライバルは戦々恐々としていることだろう。

  本来なら、高機能な端末には莫大な開発費がかかっているため、それを販売することで利益を得ようとするのは当然だ。しかし、Kindle Fire端末のデバイス自体は、ほぼ原価で提供されている。そのお陰で、利益は出ていないものの、爆発的に普及し始めているのだ。Amazonの目的は、端末販売での短期的な収益増ではなく、その端末を普及させ、市場を獲得した上で、コンテンツ販売で得られる長期的な利益。今、Amazonは利益を失うリスクを背負ってでも、市場を奪う戦略に打って出ているのだ。これはまさに、ネット通販で世界シェアのトップに躍り出た手法と同じだ。Amazonはあらゆる分野の事業において、長期的なシェア獲得を視野に入れて市場の独占を狙ってくる。

  だとすれば、今回の全商品無料配送サービスの終了は何を意味するのだろうか。もともとキャンペーンなのだから、終了するのは当然といってしまえばそれまでだが、日本のユーザーの中で圧倒的に認知が広まった今、Amazonが今後どんな動きを見せるのか、通販業界のみならず、大きな注目が集まっている。(編集担当:藤原伊織)