為替と共に上げたり下げたりでも最後は10900円台に乗せ、終わりよければ全てよし?
14日の東京市場は休場だったがNY市場は開いていてNYダウは4連騰で18ドル高。三連休の間に為替レートはドル円が89円前後から89円台半ばへ、ユーロ円が118円前後から119円台後半へ円安が進んだため、15日の東京市場は日経平均は113.08円高の10914.65円と10900円台に乗せて始まった。
前場の日経平均は一時10952.31円まで上昇し、為替はドル円90円、ユーロ円120円の大台に乗せかけたが、前引け後に甘利明経済財政・再生担当大臣が「過度な円安は国民生活にマイナス」と発言して、ドルもユーロも1円近くも円高方向に戻ったため、後場は10900円を割り込んで始まった。その後もなかなか浮上できず終値は77.51円高の10879.08円で、4日連騰で2011年の震災前高値10857円を上回ったものの、大台目前での引き返し感が残った。甘利発言は前場で過熱感が出ていたデリケートな局面でタイミングが悪かった。
東証33業種の値上がり業種は上から海運、鉱業、医薬品、機械、非鉄金属の順で、値下がり業種は下からゴム製品、ガラス・土石、その他製品、石油・石炭製品、空運。この5業種だけがこの日、マイナスになった。
自動車では2012年の世界自動車販売でGMを抜いて首位返り咲きが確実と報じられたトヨタ<7203>が5円高。電機ではソニー<6758>が一時1000円台を回復したが、アップル株が下落して500ドルを割った影響が出てシャープ<6753>が9円安。アップル関連銘柄といわれる中では村田製作所<6981>は上げたが、TDK<6762>、フォスター電機<6794>は下落した。精密は2014年3月期に増収の公算大と報じられても、ニコン<7731>が前場で昨年来高値を更新してもすぐ下落、リコー<7752>は上昇と好対照だった。一部の証券会社が投資判断を引き下げたファナック<6954>は530円の大幅安で日経平均の足を引っ張ったが、オリンパス<7733>は138円の大幅高で、スキャンダル発生前の水準2000円台にあと一歩まで戻ってきた。
通信では午後2時に12月の携帯電話・PHSの国内販売台数が発表され、年間を通じて純増首位を維持してトップのソフトバンク<9984>は、イー・アクセス株の大量売却を決めたニュースもプラスに作用し15円高。11月の純減を12月は純増に盛り返したドコモ<9437>は株価も1.09%上昇の1400円高。KDDI<9433>も30円高だった。
16日の東京市場は、NYダウは27ドル高でも朝方の為替レートはドル円が88円台後半、ユーロ円が118円近辺で円安が足踏みし、「株価は一服か」という空気が流れていた。日経平均は72.67円安の10806.41円で始まり、すぐ10700円台に下落した。後場は自民党の石破幹事長の「円安で産業によっては困る企業も出てくる」という発言を受けて一時、ドル円87円台、ユーロ円116円台になる局面もあり、これが海外の機関投資家の先物売りを誘って下落幅は250円を超え、一時10600円台も割り込んだ。
結局、終値は278.64円安の10600.44円と昨年11月15日以来最大の下げ幅を記録し、一服どころか底が抜けてしまった。大型株の売りがかさんだので東証1部売買代金は2兆円を突破している。ファーストリテイリング<9983>が1100円安、売買代金6位のファナック<6954>が650円安、売買代金10位のソフトバンク<9984>が99円安で日経平均マイナス寄与度1~3位に顔を揃え、合わせて81円も引き下げに寄与しては、日経平均の大幅安も納得できる。
値上がり銘柄数は332、値上がり銘柄数は1287で、東証1部33業種の騰落率が全部マイナスという最近見なかった現象。下げ幅が小さいのはJAL<9201>の65円高が貢献した空運、JRと私鉄に昨年来高値を更新した銘柄が10も出た陸運、セブンアイHD<3382>が10円高などおおむね堅調な小売といった内需系ディフェンシブ銘柄。一方、下げ幅が大きいのは海運、不動産、証券、保険、繊維、鉄鋼など、年末年始まで派手に値上がりしたセクターが揃った。メガバンクも下げたが、金融系でもディフェンシブ色が強い地方銀行株は買われる銘柄も出ていた。
円高で輸出関連株は総崩れになり、トヨタ<7203>が110円安、ホンダ<7267>が100円安、キヤノン<7751>が140円安、コマツ<6301>が110円安と株価3ケタ安がゾロゾロ。シャープ<6753>もパナソニック<6752>もソニー<6758>もみんな下げている。
この日、目立っていたのが太陽光発電関連のサニックス<4651>で、80円高、+28.67%で値上がり率1位、売買高8位、売買代金9位と売買を伴って上昇した。
朝方、国内線のボーイング787が飛行中に煙を出して高松空港に緊急着陸した全日空<9202>は3円安。リチウムイオン電池の発火が原因とみられGSユアサ<6674>が15円安と大きく下落した。翼を作っている富士重工<7270>、三菱重工<7011>、炭素繊維の東レ<3402>、チタンの東邦チタニウム<5727>、飛行制御装置のナブテスコ<6268>など、数年前にもてはやされた「ボーイング787関連銘柄」の株価が揃って下げている。一方、新幹線を走らせるJR東日本<9020>、JR東海<9022>は昨年来高値を更新し、JR西日本<9021>も上がった。機材不足で国内線に欠航が出るのを懸念して飛行機から新幹線に変える人が多く出て旅客収入が増えるという読みだろう。
NYダウは23ドル安。前夜は88円台後半だったドル円、118円台前半だったユーロ円は、17日朝から前場にかけてそれぞれ88円近辺、116円台後半まで円高が進んだ。それでも日経平均は60.5円高の10660.94円で始まり、マイナス圏まで落ちながら10694円まで上昇するV字カーブの荒い動き。それでも前場はおおむねプラス圏を維持した。ところが後場は大幅安で始まった上に乱高下。10500円をはさんでしきりに浮いたり沈んだりし、一時は10432円まで下げた。このまま3ケタ安で続落かと思いきや、大引け直前、為替がドル円88円台後半、ユーロ円が117円台後半へ一気に円安進行。日経平均も急上昇し終値は9.20円高の10609.64円と、ジェットコースターのような1日はなんとプラスで終わった。39億株、2兆2224億円の大商い。
午後3時前に甘利明経済財政・再生担当大臣の「円は依然として行き過ぎた上昇の修正局面にある」という円安容認発言が伝えられ、一斉に円売りを誘って株価が急騰した。
TOPIXもプラスだったが、東証1部は値上がり銘柄数よりも値下がり銘柄数のほうが多かった。値上がり業種上位は情報・通信、金属製品、ゴム、医薬品、輸送用機器などで、値下がりが目立った業種は建設、倉庫、海運、不動産、パルプ・紙と、輸出関連、インフラ関連、ディフェンシブ系がごちゃ混ぜ。この日、市場がいかに混乱していたかを物語る。
その中で元気だったのは電機株で、中でもレノボとの提携が伝えられたシャープ<6753>は23円高で値上がり率8位、売買代金1位、売買高2位と活発に売買された。ソニー<6758>も55円高で、終値で1000円台を回復し売買代金4位。パナソニック<6752>も2円高。NEC<6701>も10円高で売買高9位に入っている。自動車株ではトヨタ<7203>が55円高で売買代金5位、ホンダ<7267>も55円高だったが、マツダ<7261>は売られて株価100円台に逆戻りした。
日本取引所グループ(JPX)<8697>は360円高で値上がり率5位に入り一時株価5000円をつけた。主力株で値下がりが目立ったのは三井不動産<8801>の58円安、三井物産<8031>の15円安など。16日に事故を起こしたボーイング787をJALより多く保有し国内線の欠航が相次ぐ全日空<9202>は1円安。ボーイングにバッテリーを納めているGSユアサ<6674>は16円安で続落した。
為替レートの円安が急速に進んだ18日未明、ドル円は2年7ヵ月ぶりに90円にタッチし、ユーロ円は120円に乗せた。アメリカ金融大手の決算はまちまちでも雇用や住宅の指標が改善したのが好感されてNYダウは84ドル高。インテルは決算自体は悪くなかったが、業績見通しが市場予測を下回った。
日経平均は182.99円高の10791.97円で始まり、TOPIXは900台を回復した。その後は前場も後場もほぼ10800円台で終始。アジア市場も堅調だったので、終値は「利益確定売りの金曜日」にもかかわらず303.66円高の10913.30円。最後に10900円台に乗せ、波乱の多かった今週の取引を高値引けで終えた。日銀の金融政策決定会合を控える来週の11000円の大台乗せに向けて視界良好。東証1部全体の86.8%の銘柄が値上がりし、売買代金は前日よりさらに増え2兆2470億円。
業種別騰落率で高かった業種は海運、保険、鉄鋼、電機、機械などで、急速な円安で輸出関連株が好調。業種別騰落率で下がった業種はJAL<9201>が35円安、全日空<9202>が2円安の空運だけ。情報・通信、電気・ガス、建設、陸運など、ディフェンシブ系が相対的に伸びなかった。
輸出関連ではホンダ<7267>、デンソー<6902>、ニコン<7731>、TDK<6762>、ダイキン<6367>は3ケタ高をマークし、キヤノン<7751>は95円高。マツダ<7261>も23円高で値上がり率10位と好調だった。ソニー<6758>はニューヨークのアメリカ本社ビルを約11億ドルで売却して約600億円の現金が入ると報じられ、125円高で値上がり率6位、売買代金1位。シャープ<6753>も6円高で続伸した。
東京市場ではインテルの決算に関して、慎重な業績見通しより堅調な設備投資計画のほうが好感された。イビデン<4062>は72円高で新光電気工業<6967>は12円高。半導体製造装置関連は東京エレクトロン<8035>が320円高、アドバンテスト<6857>が104円高、大日本スクリーン<7735>が22円高と大いに買われたが、最も注目を集めたのが330円高で終値を5000円台に乗せたディスコ<6146>。主力が切削工具で消耗品なので、円安はいち早く効く。東京エレクトロンはファーストリテイリング<9983>、京セラ<6971>、ファナック<6954>、信越化学<4063>とともに3ケタ上昇で日経平均寄与度の上位5銘柄に入った。
中国の重要な3指標が発表され、第4四半期のGDP速報値は8四半期ぶりに改善し7.9%、12月の鉱工業生産は10.3%増で前月比0.2ポイント加速、12月の小売売上高は前年同月比15.2%増で、どれも底入れ、反転は確認できたがほぼ市場予測通りでサプライズはなく、東京市場はほとんど反応しなかった。中国関連銘柄の代表格のコマツ<6301>、ファナック<6954>、日立建機<6305>は買われたが、この日は中国に限らず輸出関連株全体が上がっていた。
日本取引所グループ(JPX)<8697>は一時ストップ高の705円高で値上がり率2位に入り、決算発表を行って最終損益が黒字化した水戸証券<8622>は27円高で値上がり率8位。収益大幅改善の極東証券<8706>は74円高と、中堅証券にも春が来たようだ。
来週の展望 金融政策決定会合とアップル決算の影響は?
来週の東京市場、日本経済にとってのスペシャルイベントは21~22日の日銀の金融政策決定会合だ。「2%のインフレ目標」など共同文書の中身の多くはすでに既定路線として市場が織り込み済みなので、日銀側が政府にささやかな抵抗を試みて何か条件をつけたりすると、それだけで市場がネガティブに反応する恐れがある。逆に一部の新聞に「FRBにならって無制限緩和をする」という観測記事も出るなど、追加緩和策にさらにオプションがつくこともありうる。過去の金融政策決定会合の例にならうと、白川総裁の記者会見は22日午後の大引け後でも、その前の正午前後には日銀から発表がある見込み。もし遅れれば「もめているのではないか」と勘ぐられて22日後場の株価が下がりそうだ。市場関係者の願いは「日銀はムダな抵抗はやめて、素直に政府に従ってほしい」だろう。
その株価への影響だが、21、22日の間にドル円90円以上、ユーロ円120円以上を維持し、日経平均が11000円の大台に乗せていると仮定すると、それは会合の結果を目いっぱい織り込んでいると考えられるため、為替も株価も織り込み済み、材料出尽くしでの折り返しが考えられる。追加緩和策の上乗せや政府発のポジティブなニュースが出てくれば11000円の大台維持もありえるが、達成感があるのでそれより上値は追いにくい。
しかも、市場がかなり神経質になっているので、今週のように事件や事故が起きたり、政府要人から不用意な発言が飛び出すようだと、為替が円高方向に戻り、それに伴う株価の下げが大きくなりそうだ。しかし、下げたとしてもすぐに押し目買いが入るなど底堅いので、日経平均は10500円台程度までで下げ止まるだろう。来週の日経平均は10500~11100円の範囲で動くか。
なお、来週あたりから3月期決算企業の第3四半期の決算発表が尻上がりに増えてくるが、「安倍相場」で円安が始まったのは11月15日なので、輸出型企業でも10~12月期では円安が業績にそれほど大きく反映していないと思われる。それでも想定為替レートを大きく変えたり、2013年3月期の通期見通しを上方修正したり、次の2014年3月期について「収益の大幅な改善が見込める」といったコメントを出すような動きは出てくると思われる。それを材料に買われる銘柄も見られるようになるだろう。
来週の国内指標は21日に首都圏近畿圏のマンション市場動向、22日の午後2時に11月の景気動向指数、23日に月例経済報告と半導体製造装置BBレシオ、24日に貿易収支、25日の午前8時30分に12月の消費者物価指数(CPI)が発表される。景気や物価で好ましい数字は出てくるだろうか。
アメリカは、21日はキング牧師の誕生日の振替休日でNY市場は休場。決算発表は22日がデュポン、IBM、グーグル、テキサス・インスツルメント、23日がアップル、24日がマイクロソフト、AT&T、スリーエム、25日がP&Gと、主力企業が目白押し。特にアップルは、24日の日本のアップル関連銘柄、たとえば村田製作所 、TDK 、フォスター電機 、イビデン 、ミツミ 、シャープ などの株価に影響しそうだ。経済指標は22日は中古住宅販売件数、リッチモンド連銀製造業指数、23日に住宅価格指数、24日に12月の景気先行指数と半導体製造装置BBレシオ、25日に新築住宅販売件数と、住宅関係が多い。
ヨーロッパでは20日にドイツでニーダーザクセン州議会選挙が行われる。9月の総選挙の前哨戦と位置づけられ、メルケル首相への批判票が多く集まるようだと欧州債務問題の処理の停滞を懸念して21日の東京市場に影響が出るかもしれない。21日にはユーロ圏財務相会合、22日にはEU財務相理事会がある。22日にユーロ圏ZEW景況感調査、23日にユーロ圏消費者信頼感指数速報、24日にはユーロ圏のPMI速報(製造業、サービス業)と経常収支が発表される。中国では24日に中国製造業PMIがHSBCから発表される予定で、春節商戦向けの生産はどの程度、盛り上がっているだろうか。
なお、23日から27日まで世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)がスイスで開かれる。日本からは安倍晋三首相に代わって甘利明経済財政・再生担当大臣が出席する予定。今週、“口”で東京市場の為替と株価を2回も大きく動かした人物だけに、また余計なことを言わないようにお願いしたい。(編集担当:寺尾淳)